09. 今回は失敗できない
(私一人で全てしないとダメだし、ゲームで描かれて無いから不安もあるけど、この方法しか無いよね……)
ロゼッタが考えた作戦とは……。
まず、マリナをゲームと同じ教室に閉じ込め、それからアスベルトが居るであろう生徒会室に向かう。
ゲーム通りならば、マリナはアスベルトに“生徒会室に来るように”と言われる。
ここからは、ゲームに描かれていないため完全なるロゼッタの想像でしか無いが、なかなか生徒会室に現れないマリナを心配したアスベルトは生徒会室から出てくる。
そこを狙って、出て来たアスベルトを呼び止め、カイルに知られないようにしてマリナの居場所を教える。
それから、カイルと一緒にマリナを探すふりをして、全然違う場所を探させて時間を稼ぐと言う物。
――ある日、校内に“マリナがアスベルトと密会している”と言う噂が流れ始めた。
それがイベント開始の合図。
(良かった。失敗ばかりだったから、不安しか無かったけど……。ここで上手くアスベルトルートに入れば後はもう安泰。バッドエンドと言う未来は無くなり、私は晴れて国外追放される。そして国外追放された後は、素敵な人と巡り逢い幸せの家庭を築きあげる!!)
ロゼッタは少し安堵した気持ちになった。
アスベルトルートのバッドエンドの条件は、このイベントでカイルとの噂が流れる。
でも、マリナはアスベルトを選択しアスベルトルートに入る。
そこで後2つ有る、選択肢を1つでも間違えるとバットエンドになってしまう。
また、カイルも同様の仕様になっていた。
――翌日。
ロゼッタは、イベントの下準備をするため誰よりも早く登校していた。
直ぐに教室向かい、教室の中に入るが案の定誰も来ていなかった。
「良かった。まだ誰も来てないみたいね……」
鍵の掛かっていないマリナのロッカーを開けて、ゲームと同じように"今日の放課後、訓練室に来るように”と匿名で書いた紙を入れる。
「これで、よし! 後は職員室で鍵を借りないと」
訓練室は基本的に授業で使うことは無く、生徒が予約を取ったら自由に使える仕組みとなっていた。そして、誰かが予約を取っている時はたとえ教員だったとしても、邪魔してはいけない。と言う暗黙のルールもあった。
そして何より、訓練室は一番奥に部屋が有る。しかも訓練室が在る階はとくに用事が無いと誰も近づこうとしない。
ロゼッタは今日一日中使えるように、ちょっと書類に戸惑ったが無事に予約を取ることが出来た。
予約を取ると直ぐに訓練室の鍵を渡される。
「はい。終わったら返しに来てね」
「はい」
職員室を出ると、先ほど貸してもらって鍵を見つめる。
「無事に借りれて良かった……。お昼休憩の時、鍵を開けに行かないと」
教室に戻るとすでに数人の生徒達が登校していた。
その中にマリナも居る。
マリナはちょうど自分のロッカーを開けるところだったため、ロゼッタはその姿をジーと見つめていいると、突然声をかけられる。
「ロゼッタ嬢、はよ。今日は早いね?」
「カイル様、おはようございます。たまには早く登校する事ぐらい有りますよ」
「そっか」
そう言うとカイルはそのまま自分の席に向かう。
ロゼッタは直ぐにマリナを見るもマリナも自分の席に着いていた。
(あの手紙、気づいてくれたよね?)
お昼休憩の時間になり、ロゼッタはさっさと昼食を済ませた後、今朝借りた鍵をスカートのポケットに忍ばせ訓練室に向かう。
向かっている途中、アスベルトとマリナが廊下で何か話している所だった。
「すまないが、今日放課後に、生徒会室に来てくれないか?」
「今日ですか? 少しだけ用事が有るので、その後でも宜しければ伺います」
「分かった。それでも構わない」
「では、用事が済んだら伺いますね」
マリナはアスベルトに満面の笑みを向ける。
(やっぱり、今日、マリナは生徒会室に呼ばれてたのね。それと、ちゃんと私の手紙読んでくれたんだ。良かった)
ロゼッタは、誰にも見られないようにニヤリと口を動かす。
それから訓練室が在る階に着くと、先ほどまで居た階とは全然違い人の気配も感じられずシーンとしていた。
「早く鍵開けに行こっと!」
訓練室の前に着くと直ぐにスカートのポケットから鍵を取り出して、ガチャガチャと開ける。
ちゃんと開いたか確認するため扉を押すとすんなり開いた。
「――折角だしちょっとだけシュミレーションしようかな?いざって時、もたもた出来ないし」
そうして、ロゼッタは呼び鈴が鳴るまでずーとシュミレーションをしていた。
△
放課後の時間になり、いよいよイベントがスタート。
ロゼッタは、鞄を持って教室から出て行ったマリナを確認した後、自分の鞄は教室に置いたまま彼女の後を追う。
そして、少し離れた場所からマリナを観察していると、彼女は訓練室が在る階段に上って行く。
(お昼のシュミレーション通りにすれば、マリナの閉じ込めは上手くいくはず!)
ロゼッタは階段の前で一度足を止め、スカートのポケットから訓練室の鍵を手に持ち、一呼吸置いてからマリナが待つ訓練室に向かった。
マリナは手紙に書かれていた訓練室の扉の前に立っていた。
ロゼッタが近づくとマリナは彼女の存在に気がつく。
「あ! ファームス様。ごきげんよう」
マリナはロゼッタの方に正面を向き挨拶をする。
しかし、そんな彼女の挨拶を無視しロゼッタは両腕を胸の前で組んで立つ。
「あなた、ご自身の噂はご存じ?」
「噂ですか――?」
「えー。あなたがアスベルト様と「密会している!」と言う噂ですわ。彼は私の婚約者ですのよ! それなのに――」
ロゼッタはマリナの腕をガシッと掴むと、手に持っている鍵を鍵穴に入れてからお昼休憩の時に鍵を開けたままにしていた扉を押し開き、両手で勢い良くマリナを教室に放り投げる。
「きゃっ!」
マリナはとっさの事で対応出来ずに床に手を付いて転ぶ。
そんな姿を見て「ごめん」とロゼッタは心で謝ると仁王立ちになり、マリナに向かって言葉を放つ。
「人の婚約者に手を出すなんて――ここで自分がした罪を反省なさい!」
言い終わると同時に、突然どこかしら突風がロゼッタの背中を押す。
突風に押されたため、ロゼッタの足は勝手に前に進み教室内で転んでしまう。
「っ!」
上半身を起こし扉を見ると、先ほどの突風は無く扉が閉まる寸前だった。
扉が閉まった途端にガチャガチャと鍵を掛ける音が聞こえてくる。
ロゼッタは膝の痛みを感じなら立ち上がり、急いで扉に近寄り開けようとするが鍵が掛かった後で扉を開けるとこが出来なくなっていた。
「ちょ! ここを開けなさい! そこに誰か居るのでしょ?」
ロゼッタは扉の向こうに居るであろう相手に大声で言う。
しかし廊下に居る人物からは返事はなく、だんだんと人の気配が離れて行くことに気がついた。
「ちょっと! 開けなさいよ!」
今のロゼッタは、頭に血が上っていて本来の素の自分で喋っている事に気がついていなかった。
この教室の鍵は内側も鍵穴で出来ており、鍵が無いと開けられない仕組みになっていた。
(最悪。なんで、こうなるのよ……)
ロゼッタは落胆からそのまま床にぺたりと座り込む。