06. 勉強会
翌朝、ロゼッタは教室に向かうため渡り廊を歩いていると背後から「ロゼッタ嬢。おはよ!」と声をかけられ、突然の事で肩が跳ね上がる。
後ろを振り向くとそこにはカイルが居た。
「ごめん。驚かせちゃった……でさ、今日の勉強会何処でするかもう決めてる?」
「あっ!」
ロゼッタはカイルをどうやって勉強会に誘うのかと、その申し出を受け入れてくれた安堵感から、自分達が何処で勉強会をするのか決めていなかった。
「いえ、とくには……」
「じゃ、生徒会室とかどう?」
「え? 生徒会室ですか?」
(生徒会室って確かゲームでマリナ達が使ってたはず。だとしたら今回も絶対にあそこを使うだろうし――。他に勉強しやすい場所は……教室はマリナに見つかって「一緒にどうですか?」って言われそうだから却下かな、他は――)
ロゼッタは悩みに悩みようやく答えを出す。
「あの、生徒会室はちょっと。私、部外者ですし……。ですので、図書館とかは如何ですか?」
「図書館ね……了解!」
カイルは少し考えた後、了承する。
「そうそう、先に図書館に行ってってくれない? オレちょっと用事が有るから」
「かしこまりました」
カイルとの会話が終わると二人は、自分たちの教室に向かった歩き出す。
△
放課後の時間になり、ロゼッタはカイルに言われた通り先に図書館に来ていた。
この学園の図書館は、国内外問わず集められた書物を扱い、加えて生徒も多いため4人掛けテーブルは300台以上在る。
そのため、建物はとても大きく3階の天井まで吹き抜けになっており、とても開放的な空間になっている。
普段は閑散としている図書館だが、試験が近いため生徒が大勢利用していた。
試験前になると空席を探すのは一苦労にため、試験前から終わるまでは受付が席の管理を取る仕組みとなっていた。
そのため、ロゼッタは直ぐに空いている席が無いか確認するため受付に向かう。
着くと中年男性の受付係に「2人で座れる席はありませんか?」と言い確認してもらう。
男性は直ぐに空いている席が無いかを、席が書かれている紙を見ながら調べ始めた。
「お待たせいしました。4人掛けテーブルが後1台残ってたので、そちらをお使いください」
「分かりました、有難うございます。あの、もし連れが訪ねて来たら私が座っている場所を伝えていただけませんか?」
「畏まりました。では、学生証の提示お願いします」
「はい」
そして、受付係に教えてもらった4人掛けテーブルに座りカイルが来るのを待つ。
カイルを待っている時間、ロゼッタは自習をしようと教科書をテーブルの上に広げる。
少しの間、自習をしていると「ロゼッタ嬢。お待たせ」と、ひそひそ声がロゼッタの耳に届く。
声が聞こえてきた斜め後ろを方を向くとカイルは、少し申し訳なさそうな顔をしながら立っていた。
ロゼッタは何故カイルがそんな顔をしているのか理解できず、頭に“?”とハテナマークを浮かべたが、それより“これで、マリナがカイルを選ぶ選択肢は無くなった”っと思いカイルのその顔の意味を深く考えずに、直ぐ椅子から立ち上がりカイルの方に体勢を向け、計画が上手くいったと思い満面の笑顔でお礼を言う。
「カイル様。有難う――」
ロゼッタは最後までお礼を言う事が出来なくなり、先ほどまでの満面の笑顔はどんどん曇っていく。
それはカイルの後ろから、アスベルトが現れたからだった。
(え? アスベルト?)
幻でも見ているのかと思い、ロゼッタは自分の目を擦るがアスベルトの姿が消えることは無かった。
今の状況が全く理解出来ずにいると、アスベルトの横からちょこんっとマリナが姿を現す。
(え? マリナまで? なんで?)
マリナが現れた事により、さらにロゼッタの思考は回らなくなる。
そんな、ロゼッタの姿を見ていたカイルは「とりあえず座ろう」っと言いロゼッタを椅子に座らせる。
ロゼッタの目の前にはカイル、そしてカイルの横にはマリナが座り、マリナの前にはアスベルトが座った。
ロゼッタは今の状況が分からず、カイルに説明を求めるように穴が空くほどじーっとを見つめる。
教科書を見ていたカイルは、ロゼッタの視線に気づき顔を上げるが直ぐにばつが悪そうに再び教科書に目を落とす。
(――!! カイルさっき目が合ったでしょ? なんで目をそらすのよ!)
ロゼッタはカイルに対して不満が募り、さらにじーっと見ていると「おいっ!」っとマリナの前に座っているアスベルトは、ロゼッタに向かって子声で言う。
自分に言われた言葉だと分かったロゼッタは、直ぐに横を振り向くと不機嫌顔のアスベルトがそこには居た。
(え? 何? 私アスベルトに何かした?)
「勉強に集中しろ!」
「……はい」
少し怒りの混じった声でアスベルトに言われ、ロゼッタは2人がここに居るこの状況も、なぜアスベルトが不機嫌顔をしているのかも分からないまま、大人しく勉強をすることにした。
その後も勉強をしながら、ロゼッタはちょくちょくカイルを見てたが彼が彼女を見ることは無くその日の勉強会は終わった。
図書館からの帰り道、なんとしてもカイルに今日の状況を説明してもらおうとロゼッタは行動に移す。
アスベルトとマリナは、少し前を歩いているためカイルの横に並び一緒に歩く。
「カイル様、なぜアスベルト様が今日あそこに居られたのですか? しかも、ロビンソンさんまで!」
「あー、ごめんね。ちょっと口が滑っちゃって……それに、やっぱり二人きりで勉強してたって後でアスベルトに知られると、いろいろと面倒な事になってたと思うし。あっ! マリナ嬢の事はオレも聞いてなかったからね!」
カイルは言い終わると、直ぐにアスベルトとマリナの元に急いで向かう。
(なんで、アスベルトに知られると面倒な事になるの? てか、カイルなんで口を滑らすかな? マリナとアスベルトを2人っきりにして、カイルの選択肢を無くす計画なのに!)
ロゼッタはムッとしながら3人の後ろを歩いて帰る。