05. これで次は上手くいくはず
教室に戻ると数人の令嬢達が先に戻っていた。
ロゼッタが教室の中に入ると数人の令嬢達が彼女の存在に気がつき近寄る。
そして、ロゼッタの頬に四角い白いガーゼが張られているのを見て心配する。
「ファームス様。お怪我はもう大丈夫ですの?」
「本当ですわ。お労しい……」
「ご心配をおかけいたしました。怪我はたいしたことありませんでした」
ロゼッタの言葉を聞いた令嬢達は安堵の表情を浮かべる。
「それは良かったです。それにしても、ファームス様。アスベルト様に愛されておられて羨ましいですわ」
「本当に。直ぐにファームス様の元へ駆け寄り、抱き上げるんですものね~」
「私もあんな素敵な殿方と出会いたいものですわ」
令嬢達はそれぞれ本当にロゼッタが羨ましい!と言うように話す。
(それは多分、私がまだ婚約者だからだと思うんだけど……さすがにそんな事言えないし)
「そんな事ありませんわ。それではこれで」
ロゼッタは令嬢達から逃げるようにして、窓際の自分の席に着く。
(そういえば、アスベルトにちゃんとお礼言ってなかったな。後で見かけた時言おう)
そう思った後、今度は次のイベントの事を太陽の日差しが差し込む窓の外を見ながら考え始めた。
(次のイベントもアスベルトとカイルの共通イベントだったはず……。でも、残念ながら次のイベントにロゼッタは絡んで無いんだよね。でも、どんなイベントが起きるかは知っているからカイルには悪いけど、マリナとカイルの邪魔は出来るはず!)
次のイベントは、試験勉強のためにマリナ、アスベルト、カイルが一緒に勉強会をする。
そこで、マリナは自分一人では解けない問題を教えてもらうため、どちらか一人を選ぶことにする。すると選ばれた方の好感度が上がる。
(確かゲーム内では試験、一週間前から勉強会だった気がする。カイルを選ぶ選択肢が無ければ必然的にアスベルトの好感度が上がるはずよね? だったら、カイルにはその期間だけ私と一緒に勉強してもらうわ。先約があればマリナの誘いを断らずを得なくなるはず!!)
そう思うと、次はカイルにどんな風にお願い事をするか考え始めた。
カイルとはアスベルトを通じて幼馴染みではあるけれど、気安く願いが言える関係では無かったため考え悩む。
結局良い答えは見つからなかったため“その時の流れでなんとかしようっ”と最終的にはそう思った。
そして気がつくと外は昼間の太陽の光は無く、今度は暗く月の光が目に入ってきた、ロゼッタは直ぐに教室内を見渡すと生徒は1人も残って居なかった。
ロゼッタはすぐさま帰る準備をして教室を後にした。
翌日、アスベルトに昨日のお礼を言おうとタイミングを見ていたが、アスベルトは授業が終わる毎に直ぐに席から立ち上がり教室を出て行く。そのため、ロゼッタは話しかけるタイミングが見つからなかった。
その翌翌日も同じような感じだったため、今度あるアスベルトとの茶会の時にお礼を言おうと決めた。
そして、アスベルトとの茶会当日。
頬の傷はもう塞がり、ロゼッタはガーゼを外し足が隠れるほどのドレスを着て馬車で城に向かう。
城に着くと、何時ものようにテラスまで侍女に案内され、アスベルトが来るのを座って待っていた。
少し待っているとアスベルトがゆっくり歩いてテラスまでやってくる。
ロゼッタは直ぐに立ち上がりアスベルトが到着すると直ぐに挨拶を交わす。
交わし終わると、ロゼッタは学園で言えなかったお礼をその場で言う。
「アスベルト様。その節は私を保健室まで運んでくださいまして、有難うございます」
「……いや、構わない」
アスベルトはチラッと剣でかすったロゼッタの頬を見る。
ロゼッタの頬には少し傷痕が残っていた。
「もう、傷は大丈夫なのか?」
まさか質問をされると思っていなかったロゼッタは、一瞬目を丸くしたが再び先ほどと同じ柔らかい目つきになり質問に答える。
「はい。傷は塞がりましたし、もう痛みはございません」
「そうか、その傷痕は今後も残ったりするのか?」
「痕ですか? 残らないと聞いておりますが……?」
「そうか。なら良かった」
ロゼッタの答えを聞いたアスベルトは安堵の表情を浮かべる。
椅子に座るように言われ座ると、小皿に乗ったショートケーキと紅茶がロゼッタの目の前に出される。
フォークでケーキを刺しそれを口に含むと、ふと先ほど傷痕の事について聞いてきたアスベルトの事を思い出す。
(何で、痕の事なんて? ――そっか! 確かにアスベルトが痕のこと心配するのは当たり前よね。だって、この傷痕が有る限り、アスベルトがいくらロゼッタと婚約破棄をして国外追放したくても王様が「傷の責任を果たせ!」と言って許してくれなさそうだし……でも、そうなると私も愛のない結婚をしなくちゃいけなくなるから、ちゃんと痕が消えますように)
ロゼッタは心の中でそう願った。
アスベルトとの茶会が終わると、彼は何時ものように直ぐに一人で城に戻る。
ロゼッタにはそれが当たり前の事で、直ぐにテラスまで案内してくれた侍女に今度は馬車が待っている所まで案内してもらう。
少し歩いているとカイルが一人で城の玄関の扉に向かって行ってる姿を見つける。
(あっ! そう言えば試験まであと少しで一週間前だった気がする。こう言うのは早く予定を押さえといた方が良いわね)
侍女に、ここで待つように伝えると、ロゼッタは直ぐにカイルの元へ小走りで向かう。
「カイル様。ごきげんよう」
「あれ? ロゼッタ嬢。どしたの?」
突然現れたロゼッタにカイルは驚く。
「先ほどまで、アスベルト様とのお茶会でして……」
カイルは「あー」と口には出さなかったが納得した表情をする。
「あの、カイル様唐突で申し訳ないのですが、一つお願い事が有りまして……」
「オレに?」
「はい。その……試験開始まで私に勉強を教えていただけませんか?」
ロゼッタの言葉を聞いたカイルは目を丸くする。
「え? オレ?」
「はい」
「いやー。でも……アスベルトは?」
「アスベルト様は……いろいろと忙しそうなので」
「うーん。……分かった」
カイルは渋々ながらロゼッタの提案を受け入れた。
「じゃ、いつからにする?」
「そうですね。……では、明日の放課後からとかは如何ですか?」
「明日の放課後からね。了解」
「有難うございます!」
(これで、カイルはマリナの誘いを断るしか無くなったわ!)
ロゼッタはカイルにお辞儀をすると、顔がニヤけるのを我慢しながら侍女が待つ所まで戻っていった。