42. 学園祭2
無事、演劇が終わって制服に着替え終えたロゼッタは、楽屋の椅子に座りながら先ほどの舞台の事を思い返していた。
(私さっき、自分の気持ちを乗せて告白したんだよね……)
「あれ? 今思ったけど、アスベルトって何気に勘が良かったよね? まさか、あの時想いを乗せてたこと、悟られてないよね……?」
急に強い不安に襲われている最中、コンコンっと軽快に扉が叩かれる。
一瞬ドキッとして、恐る恐る返事をすると勢いよく扉が開き、陽気な笑みのカイルが現れる。
「ロゼッタ譲。お疲れ様!」
「カイル様!?」
現れた人物に驚き、先ほどの不安はどこかへ吹き飛ぶ。
「いやー。凄く良かったよ! 最後の告白シーンなんて2人とも迫真の演技だったから、これが物語だって事を完全に忘れて見入ってたよ。それにしても、5日間であの出来は本当にすごいと思う!」
カイルは、喋りながらロゼッタに近づく。
「ありがとう、ございます」
「やっぱり、泊り込みで稽古してた甲斐があったね!」
「っ……!」
ごく一部の物しか知らないはずの泊り込みの件を、カイルが知っていたことに驚き、思わず息をのんだ。
そんな彼女の様子を見て、カイルは何かを察して口を開く。
「あっ。知ってたのは、アスベルトから直接聞いてたから! ところでさ、この後予定とか有る? 無かったら、オレ達と一緒に露店回らない?」
カイルが言葉を言い終えた瞬間、再び楽屋の扉が今度は少し強めにノックされ、ロゼッタが返事を返す前にカイルが扉を開けに向かう。
「アスベルト、いらっしゃーい」
“アスベルト”という単語を聞いた途端、ロゼッタの心臓の鼓動が早くなり、顔色もどんどん悪くなっていく。
アスベルトは中に入った途端、顔色の優れない彼女の様子に気付き、すぐさま近づいて言葉をかける。
「大丈夫か?」
「ひゃっ!」
驚きのあまり、変な声を出してしまったロゼッタはすぐに両手で口を抑える。
「なに? ロゼッタ譲、今の? かわい――」
いつの間にかアスベルトの横に来ていたカイルは、喋っている途中で口を閉ざし直ぐに元の話題に戻す。
「それで、さっきの誘いだけどう? やっぱり予定とか入ってた?」
「いえ、予定は特に――」
「そっか。あと、伝えなきゃいけないことがあって……。マリナ譲は、歩けるくらいまでは治ったらしいけど、まだ無理はできないから今日は休んでるんだよね。だから――」
カイルは、ロゼッタの様子に気づき言葉を止める。
(マリナ、やっぱり学園祭には来られなかったんだ。でも、怪我の具合が良くなってきてるみたいで、よかった)
無意識に安堵の表情を浮かべ、心からほっとする。
少し間を置いて、カイルが再び口を開く。
「それで、ロゼッタ譲。さっきの話だけど――マリナ譲が休みだからオレとアスベルト、そしてロゼッタ譲の3人で回ることになるけど。問題なさそう?」
「ロゼッタ。無理なら無理でかまわない。断ってくれても」
「そうそう。学園祭はまた来年もあるわけだし、また来年誘うよ。だから気軽に考えて」
「来年……」
ぽつりと誰にも聞こえない音量で呟く。
(来年、私はもうここにはいないんだよね……)
ロゼッタはチラッとアスベルの顔を見る。
(アスベルトに、私の気持ちが気づかれてないかって言う不安はあるけれど――)
「……ありがとうございます。せっかくなので、ご一緒させていただきます」
「本当に!?」
「はい」
「じゃ、時間もないからいこっか」
カイルは、パンッと両手を叩き嬉しそうにそう言う。
3人で露店をあちこち回り、一旦休憩するために空いているテーブル席に座っていると、カイルが唐突に席を立ちあがる。
「ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくる!」
そう言うと、カイルは足早にその場から立ち去った。
2人きりになり、少しの間の後アスベルトが口を開く。
「ロゼッタ。舞台お疲れ様」
「有難うございます。アスベルト様もお疲れ様です」
「劇団の方たちも褒めていた。代役を引き受けてくれてありがとう。やはり、ロゼッタを選んで良かった。――俺は、いつも君に甘えているな」
アスベルトは穏やかな笑みを浮かべ、優しい眼差しでロゼッタを見る。
その仕草に、彼女の心臓が跳ね上がり、その動揺を悟られまいと慌てて話し出す。
「そう言えば、ロビンソンさんのお怪我良くなって良かったですね!」
「ん? あー。そうだな。――そう言えば、ロゼッタの怪我はもう治ったのか?」
「?」
「悪い。なかなかタイミングがつかめず……バンルテ村で怪我をしただろ?」
今になって怪我のことを聞かれ、忘れていた出来事を思い出す。
「あっ。はい! もうすっかり治りました! あの時は、色々とありがとうございました」
「いや。それは俺の方が感謝している。……ほんとうに」
その後の会話でも、アスベルトから劇のセリフについて何も触れられる事は無かった。
しばらくして、カイルが戻ってくる。
「お待たせ! もう行く?」
「そうだな。ロゼッタまだ、見たいところは有るか?」
「いえ、特には……」
「じゃ、ぶらぶらして回ろっか」
カイルがそう言うと、2人は立ち上がりアスベルトは彼の横に並んで歩く。
そんなアスベルトの背中を見ながらロゼッタは、何も態度に出さない彼に少しショックを受ける。
それから、学園祭終了まで一緒に露店を回った。




