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41. 終演

 お互いの名前を知ってから2ケ月の月日が経った頃、ミミリファもジークに好意を抱くようになっていた。

 ほどなくして、外交のために隣国の王子が来訪してくる。


 隣国の王子は観光を楽しむため、お忍びで城下町を歩いていると、お店の手伝いをしているミミリファの姿が目に留まる。


「かわいい――」


 ミミリファに一目ぼれをした隣国の王子は、ぼそっと呟くとお店に向かい彼女のお店で買ったばかりの一本のバラを直ぐに彼女に渡す。

 それから彼は、限られた時間の中で毎日ミミリファに会いに行く。


 帰国前日に、隣国の王子はミミリファに会いに来ていた。

 隣国の王子は12本のバラを買い、彼女を誘う。

 お店近くの公園のベンチに並んで座ると隣国の王子は、明日帰ることと自分が王子言うことを伝えてから告白をする。


「初めてあなたを見た瞬間に恋に落ちました。私とお付き合いして頂けますか?」

「ごめんさない……。私、好きな人がいるんです」


 彼女は申し訳なさそうにそう告げた後うつむく。


 彼女に断られた隣国の王子、バラをベンチにそっと置くとその場から離れていく。


 程なくして、ジークは自分の身分を隠したまま、ミミリファと恋仲となった。


 2人が付き合いだして数週間後、隣国の王子は2人の関係を知ることになる。

 そして彼は、直ぐにミミリファに会いに行き、彼女を告白の公園に連れ出す。

 そこで、再度告白の件を考えてほしいとお願いする。


「申し訳ありません。今、お付き合いしている方がおりまして」

「知っています」

「え?」


 彼は、知った経緯を正直に打ち明け、彼女の交際相手が王子であると言う事も知っていると伝える。


「ですが、彼にとってあなたはただの“遊び相手”に過ぎないと思います。でも、私は違います! 私想いは本物です。あなたを一生手放したりなんてかしない。それでも、私ではだめですか?」

「……王子? 遊び?」

「――あの、もしかして彼が王子だってこと、ご存じなかったのですか? 」


 それから数日後の夕暮れの公園のベンチに、ジークとミミリファが座っていた。


 彼女は彼の素性を知ったと伝える。


「すまない。王子だってことを言わなくて」

「どうせ、最初から話すつもりなんて無かったんでしょ? だから、名前以外何も教えてくれなかった。ただの遊び相手だから」

「っ! そんな事一度も思ったことはない!!」


 ジークはいきなり立ち上がり、強く否定する。


「ごめんなさい。少し、考える時間を頂戴」

「……分かった。でも、これだけは伝えさせてくれに、本当に軽い気持ちで付き合っていたわけじゃない。それだけは信じてほしい」


 その日の翌日から、ジークは公務に追われる日々を過ごし2カ月も彼女の店に行くことができなかった。


 その情報を得た隣国の王子、これは好機だと思い急いでミミリファの元へ向かう。

 そして、いつもの笑顔を完全に失った彼女を王子は抱き寄せた


「私なら、悲しませたりなんてしないよ。それに、一切の秘密も持たない。私にとってミミリファはとてもかけがえのない人。だから私にチャンスをくれませんか?」

「っ!」

「ミミリファ!」


 2人の耳にジークの張り上げた声が届く。

 隣国の王子は、ミミリファから一旦離れジークの方に身体を向ける。

 ジークは、隣国の王子が告白をしたことを知り、彼女の答えを聞く前に話をさせて欲しいと隣国の王子に懇願(こんがん)する。


「まー。良いでしょう」


 許可を貰ったジークは、彼女に近づき謝罪をしてから身分を隠していた理由を明かした後、ミミリファの答えがどんなものでも全て受け入れると伝える。


 戸惑いの表情を見せた彼女を見て、隣国の王子は告白の返事の件へと話題を切り替える。


「もう良いよね。ミミリファ、告白の返事を聞かせてくれない?」

「――ごめんなさい」

「どうして!? もしかして、さっきの理由を聞いて自分が王子だって伝えなかったこと許してないよね?」


 隣国の王子は、ミミリファの肩を強く掴んで自分の方を向かせる。


「いたっ――」


 ミミリファは眉を歪ませたまま何も言わなかった。


「正気? 口先だけの言葉かもしれないのに!?」

「私は、ジークの言葉を信じます!」

「!? ……ねー。聞いていい?さっきの王子の理由を知らなかったら、私を選んでくれていた?」

「いいえ。私があなたのお気持ちを受け入れなかったこととは一切関係ありません」


 ミミリファの発言を聞いた瞬間、隣国の王子の顔が瞬く間に激しい怒りに満ちて歪んでいた。


 しかしジークから彼女の意思を尊重するよう求められ、不本意ながらそれを受け入れることにした隣国の王子は、最後に「彼と別れたらすぐに私が迎えに来るからね。それまで待っていて」と言いその場を去っていった。


 隣国の王子の姿が見えなくなるとジークが口を開く。


「ミミリファ。私が王子だと言えなかった理由を信じてくれてありがとう」


 ジークは一旦深い深呼吸をしたのち再び口を開く。


「ミミリファ。その許しは別れないって意味で受け取って良いのかな?」

「はい。問題ありません」

「っ!! 私が王子で有る以上、君に辛い思いをさせてしまうかもしれない――」

「覚悟はできています」


 ミミリファはジークの目を見てそう告げる。


(あれ? アスベルト、君って言った? あとセリフも間違ってない? 確か「これからも伝えられないことは必ずある」とかだった気がする)


「ミミリファもう一回告白しても?」

「はい」


 ジークは、彼女の目を真剣に見つめ口を開く。


「初めて、私がお店を訪れた時、実は城下町を視察中でした。当てもなく歩いていると、お店の前で貴女が男の子に笑顔を向けて感謝の気持ちを伝えていたところだった。正直その笑顔が素敵すぎて、一目で恋に落ちました」


 ジークは、照れ笑いを浮かべながらそう伝え終わると、今度は表情を引き締め真剣な眼差しで彼女を見つめる。

 その真面目な雰囲気を感じたミミリファの表情も、一瞬で引き締まり彼の瞳をまっすぐに見つめ返す。


「ミミリファ。貴女を心から愛しています」


(っ!)


 これまでの稽古では感じたことのない熱い想いを感じ、ロゼッタは思わず、“ミミリファ”ではなく、“ロゼッタ”に向けられているような錯覚になった。


(そっか。この役を通してなら、私の気持ちをアスベルトにも伝えられるんだ)


「私も、ジーク(アスベルト)を心から愛しています」

「ミミリファっ!」


 ジークは、もう二度度は無さいないと言わんばかりにミミリファを強く抱きしめると、それを感じ取ったかのように彼女もまた彼を強く抱きしめる。


 それからお互い見つめ合い、アスベルトとロゼッタはまるで本当にキスをしているかのように見える角度で、動きを止める。


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