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40. 演劇開演

 食事を終えた2人は、部屋に戻りソファーに腰掛けていた。


「ロゼッタ。セリフ合わせの前に提案したいことがある。良いか?」

「提案ですか?」

「学園祭の前日まで一緒に練習をしないか?」

「一緒にですか?」


 彼の提案は、一つでも多くの演技を覚えたかった彼女にとって、まさに願ってもないことだった。


「ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします」

「承知した。では、セルフ合わせの続きをしよう」

「はい!」


 それからセリフ合わせが始まり、一通り終わると22時を過ぎていた。


(結構かかってしまった。家に連絡はしてるとは言え、さすがに心配してるだろうな

 )


 そう思っていると、アスベルトから話しかけられる。


「ロゼッタ。もう遅い。侯爵には許可をもらっているから今夜は城に泊まっていってくれ」

「それでは、お言葉に甘えさせていただいても宜しいでしょうか?」


 城で泊まることになったロゼッタは、自分の客室に向かうためアスベルトと一緒に部屋を出ると、廊下には侍女が待機していた。

 彼女が自分を客室まで案内してくれると直感で感じ、ロゼッタは横にいるアスベルトの方に身体を向ける。


「アスベルト様。本日はありがとうございました。おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」


 挨拶を済ませ、ロゼッタは侍女と共に用意された部屋へと向かう。

 その後ろ姿をアスベルトは、最後まで見送り自室に戻った。


 △


 それから、学園祭当日。


 学園の稽古の後も、城でアスベルトと一緒に稽古をしていたおかげで、5日と言う短い間でもなんとか演技をほとんど覚えることができていた。


 最終リハーサルを終えたロゼッタは、ベージュ色の飾りのないワンピースの衣装に着替え台本に目を通し控室で待機していた。

 そんな時、扉がコンコンと鳴り、彼女はびくりと肩を跳ね上げる。

 直ぐに返事をすると、白いワイシャツと黒いズボン姿のアスベルトが現れる。


 彼は彼女を見るなり、驚いた顔ですぐに口を開いた。


「台本に目を通していたのか?」

「はい。まだ、完璧に覚えられたわけではないので――」

「……すまない」

「え?」

「そこまで気を遣わせていたとは。君の性格は知っていたはずなのに――」


 アスベルトは顔を下に向け、最後の言葉はロゼッタの耳には届かないほど小さな声だった。


「いえ。私が覚えたいからしている事なので、気にしないでください。それより、お忙しいのに、毎日夜遅くまで稽古に付き合っていただきありがとうございました。あと、当日まで泊めていただき、ありがとうございました」


 そう。彼女は、アスベルトとの個人稽古が始まってから本番当日までずっと泊り込みで劇の練習をしていたのだ。


「っふ」


 ロゼッタの言葉を聞いた彼は、少し口角を上げ微笑んだ後顔を上げる。


「俺も本番まで付き合う」

「いえ。でも!」

「気にするな、俺も念のため復習しておきたいだけだ」

「……ありがとうございます」


 そうして、幕が上がるまで2人で練習をした。


 ――開演時間になり幕が上がる。


 アスベルトが演じる王子ジークが視察のために護衛を数名連れて、城下町に到着したところから始まる。


 当てもなくジークが歩いていると、ロゼッタが演じるミミリファがちょうど花屋の入り口で、男の子に花束を手渡しているところだった。


「有難うございました。またいつでも来てね」


 彼女は、まるで太陽のように明るく笑顔で男の子にそう告げる。


「ジーク様!?」


 彼の足は、その笑顔に引き寄せられるように花屋へと向かっていった。


「いらっしゃいませ。もし何かありましたらいつでもお声掛けくださいね」

「有難う」


 ジークは花を見るふりをしながら、横目で仕事をしているミミリファの事を見ていた。


「素敵な花たちですね」

「ありがとうございます!」

「一輪頂けますか?」

「はい。どの花になさいますか?」


 ミミファはジークに近づき尋ねる。


「貴方が選んでいただけますか?」

「私ですか? 構いませんが、どなたかへの贈り物でしょうか?」

「いや。ただ、花が欲しいと思って」

「そうでしたか。かしこまりました。そうですね――この花はいかがでしょうか?」


 彼女が提案した花は、青い花びらが何枚も重なっている花だった。


「それをお願いしたい。包んでもらえますか?」

「はい。少々お待ちください」


 ――それ以来王子は、人目を盗んで毎日のように一人で彼女の店に通ったが、いつも店にいるのは彼女一人だけだった。


「いつも来てくださってありがとうございます」


 にこやかに彼女がジークに微笑みかける。


 彼はその笑顔を直視できず、花に目を向けると聞いた事のない人物の声が耳に届く。


「ミミリファ! 今日、用事が有ったんじゃなの?」

「え? あ、ほんとだ!」


 聞いた事のない声の主を見ると、そこには40代半ばほどの女性が立っていた。


 ミミリファは、ジークに目を向け「ごゆっくりご覧くださいね」と言うと慌てて店を出ていく。


「まったくあの子ったら。すみません。世話しなくて」

「いえ……」

「何かお探しでいらっしゃいますか?」

「えーと――」


 これと言って欲しい花が無かったジークは返答に困って言葉を詰まらせる。

 しかし、彼女はジークが言葉を詰まらせたのは、自分のせいだと勘違いしてしまった。


「あっ、もしかして、心配されました? 大丈夫ですよ、一応このお店の主人なので」

「そうでしたか。いつもこちらに来させていただいているのですが、彼女以外の方にお会いしたことがなかったので」

「え? あー。ここ最近は毎日あの子にお店を任せてたから。あの子、私の娘なんですけどね、今は学校が休みで手伝ってもらっているんですよ」

「そういうことでしたか」


 それから2日後。


 ジークはミミリファのいる花屋を訪れていた。


「本日も、私がお選びしてよろしいでしょうか?」

「それで頼みます」

「はい。少々お待ちください」


 ミミリファは、前もって決めていたかのように迷いなく一輪の花を手にする。

 それを彼女が花を包み始めた時、ジークが話しかける。


「この間、貴方の名前を知ってしまいまして、私だけが知っているのは不公平なので、よければ私も名乗ってもいいですか?」

「え? …あの時の。はい、お願いします」

「私はジークと申します」

「ジーク様ですね。改めましてミミリファと申します」

「ミミリファ。素敵なお名前ですね」

「有難うございます」


 彼女は満面の笑顔で心底嬉しそうにそう言う。


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