04. 次のイベントは稽古試合
翌日、ロゼッタは昨日の事を聞かれるんじゃ無いかとビクビクしながら学園に来たが、特にアスベルトから昨日のことを聞かれることも無く一日を過ごした。
(良かった。何も聞かれなかった)
学園から家に戻ったロゼッタは、自室で次のイベントの事を思い出していた。
(次のイベントは剣術の授業かー。この回からアスベルトかカイルのどちらかの好感度が上がるんだよね)
剣術の授業は基本的は男子生徒のみで、令嬢達はその授業を見学するものとなっていた。
この学園は、貴族が多い事から授業ではあるが、稽古試合の時は基本的に真剣でやることになっている。
そしてアスベルト対カイルの稽古試合の時、カイルが振り下ろした剣をアスベルトが力強く押し返すとカイルは剣を手から放してしまい、その剣は宙を舞いマリナの目の前で地面に突き刺さる。
剣が地面に突き刺さった後、2人はマリナの元に急いで駆寄り彼女は保健室に付き添ってもらう人物をアスベルトかカイルかどちらかを選択する。っと言うイベントになっている。
幸いロゼッタはマリナ、アスベルト、カイルと同じ組と言うこともあり彼女がどちらかを選択するのが確認出来る。
そして、もし仮にマリナがカイルを選んだとしても、アスベルトに「一緒に行くべきです!」っと言えば良いことだとロゼッタはそう考えていた。ら
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アスベルトとカイルの稽古試合の日がやってきた。
多くの令嬢達はアスベルトとカイルの稽古試合がよく見える場所に群がっていた。
そんな令嬢達からマリナは少し離れた場所に一人で居る。
ロゼッタはイベントが起きても直ぐにマリナの元に行けるようにと、彼女が今居る場所からほんの少しだけ斜め後ろの場所に移動した。
アスベルトとカイルの稽古試合が始まると、令嬢達の黄色い声がグランドに響き渡る。
アスベルトは王太子と言うこともあり人気で、カイルの家は代々国王直属の騎士団と言うことも有りカイルかなり人気がある。
キンッ! キンッ! と剣と剣がぶつかる音が止むとカイルが剣を振り下ろす。
(今だ!)
カイルが剣を振り下ろした瞬間に、ロゼッタはマリナの方に顔を向ける。
「危ない!」
っと声が聞こえた途端、剣がロゼッタの頬をかすると剣は、そのまま通過し彼女の後ろの地面に刺さった。
地面に剣が刺さった同じタイミングでロゼッタはその場に尻餅をつく。
彼女は今、自分に何が起きたのか頭で理解出来ないでいた。
「ロゼッタ!」
アスベルトが走ってロゼッタに近寄ると、頬から血が流れていることに気がつく。
するとアスベルトは直ぐにロゼッタをお姫様抱っこし医務室に向かった。
医務室に着くと、ロゼッタを開いているベットの上に座らせ先ほど剣でかすった頬の少し下を優しく親指の腹で撫でる。
「すまなかった」
「……」
「痛みは?」
アスベルトが優しく聞くが、今のロゼッタの思考は“どうして、マリナじゃない?”“何で、私?”っと思っていたため、アスベルトの言葉は耳には届いていなかった。
(こんなのあり得ない。なんで、マリナじゃなくて私? もしかして私の立ち位置がだめだった? 本来はマリナが立っている場所だったとか? 正直、ゲーム内の立ち位置とか分からない……もしこのまま、アスベルトルートに行かなければ――)
「ロゼッタ?」
返事が無いロゼッタを心配したアスベルトは、彼女の体を両手で軽く揺さぶる。
軽く揺さぶられる感覚でロゼッタは現実に戻される。
「アスベルト……様?」
(え!?)
アスベルトの顔があまりにも近かったためロゼッタの心臓がドキッとする。
「すまない。痛みはあるか?」
「え?」
ロゼッタは質問された意味が分からなかったが、そういえば先ほどから頬がジンジンすると思い、自分の手でジンジンする箇所を触ってしまう。
「痛!」
「おい!気をつけろ」
アスベルトは直ぐにロゼッタが傷に触ってしまった方の腕を掴む。
「血はなんとか止まったみたいだが、まだそこは消毒していない」
アスベルトは今の状況をロゼッタに教えるとガチャっと扉が開く。
すると白衣を着た女性校医が入ってきた。
「貴方たちそこで何をやっているの?」
アスベルトが校医に顔を向けると、校医は直ぐにロゼッタの頬に傷があるのを見つける。
「あら? その方頬に怪我をしたの?」
「はい。剣で頬をかすってしまったみたいです」
「それは、大変! 今から手当するから待ってて」
そう言うと校医は急いで手当の準備を始める。
「あの、アスベルト様。私はもう大丈夫ですので、お先に戻られていても大丈夫ですよ」
ロゼッタは今できる精一杯の笑顔をアスベルトに向ける。
「――分かった。あとは校医に任せる」
アスベルトは渋々ながら言うと、何時ものキリッとした表情に代わりその場から立ち去った。
(アスベルトに悪いことしちゃった。好きでもない女を保健室まで運んで、おまけにイベントはちゃんと起きなかったし……)
「はぁ」
とロゼッタは深いため息をつく。
「どうしたの? そんなため息なんてついて、何かあった?」
「いえ、べつに」
「そう。じゃ、ちょっとしみると思うけど我慢しね」
その言葉の後に、冷たい感覚としみる痛みを感じロゼッタは顔を歪ませる。
頬の手当てが終わると「授業に戻って良い」と言われ、ロゼッタはもうグラウンドには誰も居ないだろうと思い教室に戻ることにした。