39. 予期せぬ出来事
――学園祭まで残り5日となった朝
令息令嬢達が教室で教師が来るのを自席に座って待っていると、慌ただしく教師が入ってくる。
「おはようございます。急ですが今から大教室に集まってください」
それだけ伝え終わると直ぐに教室から出ていく。
(何かあったのかな? あんなに慌てて)
ロゼッタは直ぐに立ち上がり、チラッとマリナの席を見たがそこに彼女の姿は無かった。
大教室に着くと、前回とは違い着席している人が少なくロゼッタは一番後ろの階段の席に座って待つことにした。
ある程度たち令息令嬢達全員が着席すると、教壇に立っていた教師が話始める
「本日は急遽集まって頂いて有難うございます。 皆さんにお知らせがございます。昨日ヒロイン役を予定さていた方が怪我をされ、残念ながら諸般の事情により、降板する運びとなりました」
(マリナが怪我をして降板!?)
「つきましては、これから新たにヒロイン役を決めたいと思います。ご希望の方はいらっしゃいますでしょうか?」
教師がそう問いかけても誰も名乗りを上げることは無かった。
するとレミュカが手を上げ発言する。
「やはりここは、前回提案された没落貴族の令嬢でいくしかないと思いますわ」
「ですが、前回同様中々決まらない状況になる可能性も――」
「前回と今回では話が違いますわ。今回は公演まであと5日しか無いので、希望される方は完璧に演技を覚えられる方じゃないといけませんわ。ちなみに私は完璧に演じられますけど」
レミュカは鼻高高にそういった後続けて話す。
「それと、ヒロイン役の決め方ですが立候補された方の中から、投票によって決定すると言うのはいかがでしょうか?」
「……その案でしたら、なかなか決まらないと言うことはなさそうですね。分かりました。では、ヒロインの設定を没落貴族――」
「ちょっと待ってくれ!」
アスベルトは、教師の言葉を途中でさえぎり教壇へと移動する。
そして、レミュカが居る方を向いて話す。
「ガーロキックス侯爵令嬢の意見は良く分かった。しかし、今から変更するとなれば今回関わっている全員が負担を強いられることになる」
「そこは承知の上ですわ。ですが、そうしなければ公演自体が出来ないと思います」
「公演自体が出来なくなるのは非常にまずいです」
「……」
教師は青ざめながらアスベルトに向かって話すと、彼はしばらく沈黙した後ちらりとロゼッタが座っている方を見る。
(あれ? 今、目が合った……?)
するとゆっくりとアスベルトが口を開く。
「すまないがロゼッタ。ヒロイン役をやってくれないか?」
「!?」
(いやいや。聞き間違いだよね? いくら私に役が無いからって――)
聞き間違いだと自分に言い聞かせていると、再びアスベルトに声を掛けられる。
「ロゼッタ。できればこの場で回答を聞かせてくれないか?」
「っ!」
(聞き間違いじゃなかったし、この場で返事って猶予が無い)
「――……あの。あと5日で完璧に演技を覚えられる自身が無いです」
「全て完璧に覚える必要はない。とりあえず大事な場面だけでも覚えてくれれば、後は俺たちでフォローする」
「うっ。でもそれも、皆さんのご負担が増えますよね?」
「確かに負担はかかるが、ヒロインの設定が変えるよりは少ない」
「分かりました。ご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いいたします」
「ありがとう。助かる」
2人がやり取りをしている中、レミュカはロゼッタをジーと睨む。
△
その日の夜。個人稽古をするために学園の通し稽古には参加しなかったロゼッタとアスベルトは、城内の一室のソファーに向かい合って座り単行本ほどの厚さがある台本を半分ほど読み進めていた。
(意外とセリフが多い……)
セリフの多さに不安を感じながら、物語終盤まで読み進めるとある文字が目に飛び込み身体が固まる。
そこには、“愛の誓いを交わした後、2人は口づけをする”と書かれていた。
(口づけ!? 口づけってキスのことだよね? アスベルトとキス――)
アスベルトのキスを想像して頭を左右に振り想像を打ち消す。
(――とりあえず今は早く読み進めないと)
それから最後まで読み終えるとすぐにセリフ合わせに入り、物語中盤に差し掛かったところで一旦休憩をとることになった。
ぶっ通しだったため喉が渇いたロゼッタは、テーブルの上に置かれている水の入ったグラスを手に取り一気に水を飲み干し、一呼吸置いてから降板したマリナの事について尋ねる。
「――もし、ご存じでしたら教えて頂きたいのですが、ロビンソンさんの怪我は降板されるほどひどいのですか?」
「すまない。怪我の詳しい状況までは……。ただ、安静が必要で学園に登校できるのも学園祭後になるかもしれないとは聞いている」
「っ!?」
(マリナが降板するって聞いた時も驚いたけれど、そんなに安静が必要だなんて……。何が起きているの? マリナの怪我を知ってから各キャラクターの学園祭を思い返しても怪我をして降板するって言うシナリオは存在してなかった)
眉間にしわを寄せそう考えていると、コンコンと扉から聞こえアスベルトが返事を返すと侍女が室内に入って来る。
「殿下。夕餉のご用意ができました」
「分かった。あとで向かう」
「かしこまりました」
そう言うと侍女はさっと室内から出ていく。
(セリフ合わせの途中だけど、今日はもうこれで終わりかな?)
そんなことを思っているとアスベルトから声を掛けられる。
「ロゼッタの分も用意してもらっている。セリフ合わせの続きは食後にやろう」
「はい。でもその前に、自宅に帰りが遅くなると連絡を入れたいのですが……」
「――その連絡は俺からしておく。君は先にダイニングルームに向かってくれ」
「分かりました」
それからロゼッタは一人でダイニングルームに向かい扉の近くで待機していた衛兵に「殿下は後からいらっしゃいます」と伝え、先に部屋に入り大人数でも食事を囲める、縦長のテーブルの中央に着席をして彼が来るのを待つ。
しばらくすると、少し嬉しそうな表情のアスベルトがダイニングルームにやってくる。
そしてアスベルトがロゼッタの正面の椅子に座ると料理が運ばれ、食事の提供が始まった。




