34. 手作りお菓子
長期休暇も終わり今日から学園生活が再び始まる。
朝食を食べ終え学園に行く準備を済ませたロゼッタは玄関まで来ていた。
すると背後から「ロゼッタ!」っと聞いたことの有る男性の声で名前を呼ばれ振り返ると、アスベルトがこちらに向かって歩いてくる。
「え!? アスベルト様!?」
「君もこれから学園に向かうところだろ?」
「はい」
「一緒に行かないか?」
「えっ……はいっ」
彼女は何故、こんな朝早くから彼がうちにいるのかと疑問に思ったが今は何も聞かず玄関を
出ると王家の馬車が玄関前で待機していた。
その馬車に、ロゼッタが先に乗り座ったのを確認すると続けてアスベルトも乗って彼女の横に座る。
御者は2人が座ったのを確認すると扉を締め、直ぐに馬車を出発させる。
少し馬車が走ってから、彼女は気になっていた事を聞く。
「あの、こんな朝早くからどうしてうちに来られていたのですか?」
「急ぎの用で公爵に直接頼まないといけない事が出来て」
「そう、だったんですね」
それから王家の馬車は学園に着く。
扉が開かれるとアスベルトが先に降りロゼッタに手を差し出す。
少し躊躇したがその手を掴んで、ロゼッタも降りると通学している生徒達が彼女たちを見る。
(何……?)
ロゼッタは、視線を感じつつアスベルトと一緒に自分の組に向かう。
△
午後の授業も終わり、ロゼッタが馬車の待機場に着くとその場に居たガーロキックス侯爵の娘、レミュカに話しかけられる。
「あら、ロゼッタ様。ごきげんよう」
「ごぎげんよう」
「そう言えば今朝、殿下とご一緒に登校されたそうで」
「えっ……はい」
ロゼッタはいったい何が言いたいのだろう?と思った。
「ところで、長期休暇中にバンルテ村に行かれましたか?」
「行きましたけど何か……?」
「あっ。申し訳ございません。風の便りで聞いた内容が内容だけに“もしかしたら見間違いでは?”っと思ってお伺いしたのですが――。やはり、真実だったんですね」
(真実?)
ロゼッタは首をかしげると、レミュカは眉毛をピクリと動かす。
「あら? お心当たりありませんか? 村の若い男性とずいぶん親しげにされたいたとか」
「……」
「もしこのことがアスベルト殿下や王族の方達のお耳に入ったらきっと、一大事になるかもしれませんわね。でわ、ごきげんよう」
そう言い終わるとレミュカは、満面身の笑みを浮かべながら自分の馬車に乗って去って行く。
(――あの村で親しくしてたのってエリオスぐらいだよね。て事は、あの子が言っていた若男性ってきっと彼の事だよね。アスベルトは彼が一緒にマリンリーズを探してくれたこと知ってるし……。それにしても、一大事ってどういう事だろう?)
ロゼッタは、そう思いながら自宅に戻る。
――それから、レミュカが言っていた“一大事になる”っと言う事も特に無く、数日が経ちアスベルトとの茶会前日。
本日は休校のため、家で昼食を終えたロゼッタは自室でソワソワしていた。
すると、扉がノックされ心臓が一瞬ドキッとしたが、直ぐに返事をすると扉が開かれ侍女が一礼する。
「お嬢様、お客様が来られました」
「ありがとう」
侍女に案内され、応接室の中に入ると花柄のワンピースに三つ編みを左右に作りヘアアクセサリーをして、少しおしゃれをしているマリナがテーブルを挟んだ奥側のソファーに座って待っていた。
「お待たせ致しました。本日はご足労有難うございます」
「いえ。こちらこそ馬車の手配をしてくださって有難うございます」
「とんでもないです。……なんだか雰囲気が違いますね」
「はい。お恥ずかしい話、ファームス様のお宅にお伺いするので、張り切ってしまいました」
「とても、お似合いだと思いますよ。今日は宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくお願い致します!!」
マリナが何故ファームス家に来たのかと言うと、別荘でアスベルトのお礼は手作りお菓子が良いと言われた後、いつお菓子を作って渡すのかもカイルとマリナの間である程度決められた。
実際に渡すのは明日の茶会のに日なるが、時間がないため今日作ることになっていた。
「では、キッチンルームに向かいましょうか」
「はい」
そして2人はキッチンルームに向かう。
中に入ると料理人の姿はなく、木製の調理台の上にはお菓子作りに必要なボウルや秤等の道具が一通り置かれていた。
ロゼッタはそれを気にもせずにマリナに話す。
「ところで今日は、何を作る予定なんですか?」
「ラッ・ルリーベを作ろうかと思っております」
「ラッ・ルリーベ?」
「はい! 早速ですが準備しますね」
(聞いたことの無いお菓子の名前――)
マリナは持参した籠からオレンジぐらいの大きさの丸形をした紫色の果物ルリーベを取り出す。
見たことのない果物を見ながらロゼッタは、どんなお菓子なのかを考えていた。
それを察してかマリナは不安そうな顔をしながらロゼッタに訊ねる。
「あの、もしかしてご存じ有りませんか?」
「え!?」
「何だか考えられていたようだったので」
「お恥ずかしながら――」
ロゼッタが申し訳なさそうにすると、マリナは両手をぶんぶんと横に振る。
「いえ! 貴族の方達には馴染みが無いお菓子なのかもしれません」
「いったいどんなお菓子なのですか?」
「ケーキ生地の上にルリーベとキャラメルソースがかかったお菓子です」
「そう、なんですね」
それから、マリナに教わりながら薄力粉やグラニュー糖等のグラムを計り、それが終わったら材料をボウルに入れて泡立て器で生地を作っていく。
ロゼッタが生地を混ぜて間マリナは、ルリーベの皮をむき3センチぐらいに半月切りしていく。
混ぜ終わったロゼッタはマリナにボウルを見せる。
「あの、こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「はい! 完璧です」
それから調理台の上に無地の紙製マフィンカップを7個並べ、出来た生地をカップに流し入れる。
その後、空気を抜くために2,3回少し高位置から落とすしマリナが切ってくれたルリーベを乗せる。
「出来ましたね。後は、オーブンで焼いてキャラメルソースを掛けたら完成です」
「何分ぐらい焼くのですか?」
「30分ぐらいでですかね」
焼き上がるまで数分かかるため一度応接室に戻ることにした。
応接室の中に入り、マリナがちょと前まで座っていたソファーに再び彼女を座らせ、その正面の3人掛けソファーにロゼッタは座る。
「焼き上がりが楽しみですね」
「初めてなので、ちゃんとで出来ているか不安ですが」
「大丈夫ですよ! それに、アスベルト様ならきっと喜んでくれると思いますよ」
「そう、だと良いのですが……」
その後直ぐに扉がノックされる。
ここに来る前、侍女に紅茶を運ぶように手配していたため早いな?と思いつつも紅茶が運ばれたと思いロゼッタは直ぐに返事をする。
しかし、中に入ってきたのは侍女ではなく母メリルだった。




