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32. マリンリーズに願い事

 太陽が沈み空はだんだんと暗くなってきた頃、マリナはアスベルトに話しかける。


「暗くなってきましたね」

「そうだな」

「ランプつけますね」

「頼む」


 山道には外灯等の光が無いため、マリナは鞄から手のひらサイズの小さなランプを取り出し、彼女の灯りだけを頼りにして3人は無事下山することが出来た。


「アスベルト様。ここまで運んでくださり有難うございます」

「気にするな」

「あの、お疲れではありませんか? 降ろして頂いて大丈夫ですよ?」

「気遣い感謝する。しかし、大丈夫だ」

「そう、ですか」


 ロゼッタはアスベルトの言葉に甘え、そのままおんぶしてもらうことにした。


 アスベルトが再び歩こうとすると、前方から2つの灯りと2人の人影が目に入ってくる。

 その人影は、早い歩調でロゼッタ達の方に向かってくる。

 ここからでは距離があるため相手の顔が見えない。


「少し、様子を見ても良いか?」

「はい」


 アスベルトにそう言われたマリナはその場で待つ。

 距離が近づくにつれ、相手の顔が良く見えてくるようになってきて、その人影が誰だか分かる。

 それは、ランプを片手に持ったカイルと護衛兵1人だった。


「良かったー。遅かったから心配したよ」

「心配かけたな」

「うんん。無事に下山してきてくれただけで感謝だよ」

「他の者は?」

「あー。みんなエリオスさんのお宅で待機させてもらってる。さすがに大人数でそこら辺で待機してたら悪目立ちするし」

「そうか。分かった」


 カイルとアスベルトの会話が終わると再び歩き出す。

 そしてカイルは、アスベルトにおんぶされているロゼッタの顔を見ながら話す。


「ロゼッタ嬢、大丈夫?」

「え?」

「怪我したんでしょ?」

「はい」

「アスベルトにおんぶされてるって事はひどいの?」

「いえ。たいした怪我ではないので大丈夫です」

「そっか」

「あの、私が怪我をしたことを知っているのはカイル様だけでしょうか?」

「うーん。多分オレだけだと思うよ」


 その後に、エリオスにはごまかして伝えたと教えてもらう。

 エリオスの実家に近づくにつれロゼッタはあることを思い、アスベルトに話しかける。


「あの、私このままで大丈夫でしょうか?」

「??」

「アスベルト様におんぶされている姿を見て、エリオスさん達にまた心配をおかけするんじゃ無いかと思いまして……」

「――確かにそうだな。少し歩けるか?」

「はい」


 そして、ロゼッタはアスベルトの背中から降ろしてもらう。


「有難うございます」

「大丈夫そうか?」

「はい。なんとか」


 しかし、ロゼッタの歩きはどこがぎこちなかった。


 エリオスの実家に着くとカイルはそのままズカズカと敷地内に入って行く。

 それを見たアスベルトは「おい!」っとカイルに言うと「良いから。こっち」と言われ、仕方なく中に入る。


 案内された中庭にはエリオス達が待機していた。

 エリオスはアスベルトの存在に気がつくと急いで近寄り言葉をかける。


「殿下、ご無事で」

「心配かけたな」

「いえ」

「あの、エリオスさん。いろいろとお世話になりました」

「そんな! でも、お探しのマリンリーズが見つかって良かったです」

「はい。あの、今度お礼をさせて頂きたいと思っているのですが……」

「どうぞお気遣いなく。お気持ちだけ頂戴いたします」


 それ以上、無理強いは出来ないためロゼッタは諦めエリオスに挨拶をし、彼の実家を後にする。

 敷地外に出るとアスベルトはロゼッタに話しかける。


「別荘まで歩けそうか? 何ならまた背負ってもかまわないが――」

「ありがとうございます。でも、自分で歩けますので大丈夫ですよ」

「分かった。でも、もし辛くなったらいつでも言ってくれ」

「はい。もし、辛くなったらそうさせて頂きます」


 それからロゼッタは自分の足で別荘までたどり着く。


「着きましたね、ファームス様」

「そうですわね」

「ロゼッタ。薬を持って行くから先に部屋で待っていてくれ」

「ありがとうございます」


 そして、ロゼッタは部屋に戻り2人掛けソファーに座って、アスベルトが薬を持ってきてくれるのを待つ。

 待っている間、手に持っているマリンリーズをみつめる。


(アスベルトが見つけてくれたんだよね……)


 瞳を閉じ今日の出来事を思い返していると、転生してから今まで沢山アスベルトに助けられた事も思い出す。


「思えば、いつも助けられているような気がする」


(アスベルトはどうして、私を助けてくれるんだろう――)


「彼の気持ちが知りたい。でも、それはさすがに無理だよね……。さて、アスベルトが来る前にお願い事しよ」


 そしてロゼッタは、当初の願いだった“素敵な人が現れますように”と願う。

 願い終わるのと同時に、アスベルトが部屋に入ってくる。

 それから彼は、そのままロゼッタが座っているソファーに向かう。


「待たせてすまなかった。一応薬は持ってきたが……」

「ありがとうございます。自分で出来ますので、貰っても宜しいでしょうか?」

「分かった」


 アスベルトは、緑色の液体の入った瓶の蓋を開け、白色のガーゼと一緒にそーとテーブルの上に置き、1人掛けソファーに向かう。


 沁みる痛みに耐えながら、ロゼッタは両膝と両手に薬を塗ることが出来た。


「ふー」

「塗り終わったのか?」

「はい」

「痛かっただと?」

「はい。でも、自分の不注意でこうなってしまったので――。アスベルト様。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「気にしなくて良い」

「――ありがとうございます」


 お礼を言い終わると、扉がトントンと叩かれアスベルトが返事をすると扉が開かれる。

 半開きになった扉からカイルが顔を出し、そこから話しかける。


「もうすぐご飯だって。ロゼッタ嬢、ダイニングルームに来れそう? 無理そうならマリナ嬢が運んでくれるって」

「いえ。ダイニングルームで頂きます」

「了解。オレ、マリナ嬢に伝えるね」

「分かりました」


 そう言うとカイルは扉を閉める。


 △


 食事を食べ終えると、アスベルトは先にダイニングルームを出て部屋に戻る。

 アスベルトが出て行った後、カイルはロゼッタに話しかける。


「ねー。ロゼッタ嬢。アスベルトのお礼は決まった?」

「いえ、まだ……」

「そっかぁ。だったらさ、ロゼッタ嬢の手作りお菓子とかどう?」

「私の手作りお菓子ですか?」

「うん。きっと喜ぶと思うよ。アスベルト」


(確かに、ゲームだとマリナから貰った手作りお菓子は喜んでいたけど――)


 そんな事を思っていると食器を片付けに来たマリナが現れる。


「マリナ嬢! ちょうど良かった」

「??」

「あのさ、今日のお礼にロゼッタ嬢が手作りお菓子をアスベルトに渡すんだけど、ロゼッタ嬢って基本食べ専だから、お菓子とか作った事無いと思うんだよね。だよね!?」

「――はい」

「だからさ、お菓子作りを手伝ってあげてほしいんだけど――」

「!!」

「分かりました! 私で宜しければいつでも大丈夫ですよ!」

「良かったね。ロゼッタ嬢」


 ロゼッタはまだ、手作りお菓子にするとは決めていなかったが、カイルとマリナの間で話が進み今更“嫌”とは言えない雰囲気なため、仕方なくアスベルトへのお礼は手作りお菓子にすることにした。


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