29. 衝撃
マリナとカイルが去った後、気まずい空気がダイニングルームに流れ始め、それに耐えきれなくなったロゼッタは急いで椅子から立ち上がる。
「あの! 少し外の空気を吸ってきますね」
「あぁ。分かった」
「では、失礼致します」
ロゼッタは直ぐにダイニングルームを出て玄関に向かう。
玄関を出ると少し離れた場所で、護衛達が待機をしてた。
軽く会釈をすると、彼女は直ぐに森林の中に入っていく。
森林の中を歩いていると、辺りが別荘を出た時よりだんだんと暗くなってくる。
(暗くなってきた……もう、戻ろう)
微かに差し込む月の光を頼りに戻ることにした。
来た道を戻っていたつもりが、草原にたどり着く。
「こんな所があったんだ」
ロゼッタは少し坂になっている場所で体育座りをし、夜空に浮かぶ月と星を眺めながら先ほどのダイニングルームでの出来事を思い出す。
「はぁー。アスベルトと同室――」
(さすがに意識してしまった相手と同室だなんて……。アスベルトは本当にこれで良かったのかな?)
「私と同室なんて嫌なはずなのに……」
そんな考えをしていると、自然涙があふれてくる。
「ダメダメ! 私がどれだけ想っていても、アスベルトには愛されない。ゲームと同じ道には行きたくない! それに――それにもう、マリナとアスベルトが結ばれるのは決まってる事だし」
「え?」
声が聞こえ振り向いてみると、そこにはアスベルトが立っていた。
「ア、アスベルト様!? いつからそちらに……」
「いや、その――」
「っ――」
アスベルトの態度をみて、確実に何処からかは聞かれたと思ったロゼッタは、その場から離れようと直ぐに立ち上がる。
「待ってくれ!」
アスベルトの張り詰めた声を聞き、その場でピタリと足を止める。
「……」
「――っどうして君の中で、俺と彼女が結ばれる事が決まっているのか分からないが、これだけは言わせてほしい」
「……」
「俺は、彼女のことを一度でも異性として好きになったことはない!!」
「!?」
アスベルトから衝撃の言葉を聞かされ頭が追い付かなくなる。
「でも……」
「ロゼッタ、俺は……っ――」
アスベルトはそこで言葉を濁らせる。
「とりあえずもう戻ろう。カイル達が待っている」
「――はい」
その後は、お互い沈黙のまま別荘に向かう。
△
ダイニングルームに着くと既にマリナとカイルが座って待っていた。
「お帰りなさいませ!」
マリナの顔を見ると、先ほどアスベルトが言った言葉『彼女のことを一度でも異性として好きになったことはない』を思い出す。
(アスベルトは何であんなことを言ったの? それに何かを言いかけてたし――。あれは何だったんだろう?)
「……ムス様? ファームス様?」
その声で意識が戻ると、目の前にはマリナが立っていた。
「あの、ファームス様大丈夫ですか?」
「えー。問題ありません」
「そうですか。それで、ファームス様のお荷物はすべてお泊まりになるお部屋に運んでいますので」
「分かりました。ありがとう」
マリナにお礼を言い終わると、今度はカイルが話しかけてくる。
「ねー、ロゼッタ嬢。部屋の準備してる時に聞いたんだけどさ」
「はい――」
「マリンリーズって言う花を見つけるために、明日山に登るんだって?」
「……」
「そこまでして見たい花って、どんな花なの?」
カイルの質問に少し躊躇しながら答える。
「――とても、珍しい花だとお聞きしたので……」
「ふーん。ロゼッタ嬢ってそんなに花好きだっけ?」
「!?」
カイルの質問にロゼッタは焦り、少し冷や汗をかく。
昔から自分のことを知っているアスベルトやカイルに「花が好き」と言ってもそんな素振りを今まで見せたこと無かったため説得力が無い。
ロゼッタは頭をフル回転させ、有る答えにたどり着いた。
「そうですね。珍しいと聞いたので、マリンリーズに興味を持ちまして――」
「あー。ロゼッタ嬢ってなにげに珍しい物好きだもんね」
カイルは頷きながら納得をする。
△
夕食を食べ終えたアスベルトは明日の打合せのためカイルの部屋に行き、ロゼッタは部屋に向かった。
ロゼッタは、今日泊まる部屋の扉を開け、中に入ると昨日まで居た部屋より2倍ぐらい広い部屋に驚く。
室内にはテーブルに2人掛けのソファーと一人用ソファーも置かれ、そこから少し離れた場所にセミロングベッドが横に2台並べられていた。
「ここで今日、アスベルトと一緒に泊まるんだ……。どうしよう。緊張してきた――」
(とりあえず、アスベルトがいつ戻ってくるか分からないから、こう言う場合って座って待ってたら良いのかな?)
2人掛けソファーに座りながらアスベルトの帰りを待つことにした。
しかし、一時間以上経ってもアスベルトが部屋に帰ってくる事は無かった。
「……打合せ長引いてるのかな?」
すると部屋の扉がトンットンッと叩かれ、返事を返すとアスベルトが扉を開け部屋の中に入ってくる。
アスベルトの格好は、先ほどダイニングールでみた姿では無く、寝間着になっていた。
そんな姿を見たロゼッタは、ドキッとし直ぐに視線をそらす。
視線をそらしているといつの間にかアスベルトが目の前まで来ていた。
「……ロゼッタ。少し話せるか?」
「はい。大丈夫ですけど」
その言葉を聞いたアスベルトは、ロゼッタが座っているソファーの斜め横に置かれている一人掛けソファーに座る。
「明日のことで相談がある」
「相談、ですか?」
「急で申し訳無いが、明日も泊めてもらえないだろうか?」
「!!!」
(明日も!? どうして?)
「実は、ダイニングルームで見つけたい花があると話していた時から少し考えていた」
「……」
「珍しい物が好きなのは知っていたが、いくら珍しい花だからと言って君が山に登ってまで見つけたい花とはどんな花なんだろうと」
「……」
「それで俺もその花を一度見たくなった。だから明日一緒に同行させてもらえないだろうか?」
「!?」
続けての衝撃発言でロゼッタの頭は混乱し目をキョロキョロさせる。
「無理にとは言わない。ただ、君に相談する前にマリナから色々聞いてきた」
「何を、ですか?」
「山に登った当日に王都に帰るのは大変だと……」
(確かに、いくらアスベルト達に体力が有ると言っても大変だと思う。でも――)
ロゼッタは気になった事を聞く。
「あの、明日もお泊まりになられると言うことは、今日と同じお部屋でと言うことでしょうか?」
「そうなる……――しかし、先ほども言ったが、無理にはとは言わない。それに、今すぐに答えを出さなくて良い。考えといてくれ」
(もう一泊、アスベルトと同じ部屋……。でも、マリンリーズを探すのには人手が多い方が良いよね)
「分かりました。明日も同室よろしくお願い致します」
「ありがとう」
アスベルトは、微笑みを見せる。
その微笑みを見たロゼッタは、寝る準備をすると言い直ぐに部屋を出ることにした。




