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22. 自分の気持ち

 庭園には大きな池とその周りを手入れされた木々が囲い、池の上にはテラスが建てられている。

 そんな庭園でロゼッタ達は、池の前に置かれているベンチに座る。


「ロゼッタ嬢。気分は少し落ち着いた?」

「はい……」

「そっか、良かった。――あのさ、言いたくなかったら言わなくても良いんだけど、何でさっき悲しいそうな顔してたの?」


 カイルの問いに、ロゼッタは先ほど目にしたアスベルトとマリナの光景を思い出し、また悲しい気持ちになる。


「……」

「――ロゼッタ嬢?」

「……」


 再び泣きそうな顔をするロゼッタにカイルは驚く。


「ごめん。言いたくないよね」

「……すいません」

「気にしないで! その理由を無理に聞こうとは思っていないから。それにしても、アスベルトすっごく怒ってるんだろうなー」

「え?」


 カイルの唐突の会話に驚く。


「いやー。本当は昼休憩の時、アスベルトに温室に来るように言われてたんだよね……」


 カイルは少し苦笑いをしながら伝える。


「そう、だったんですね」

「でも、気にしないで! 俺が勝手に心配してロゼッタ嬢を庭園に連れてきただけだから。……でも、また悲しい気持ちになったら言ってね。人に聞いてもらうだけで心が軽くなる時とかあるから」


 カイルの優しさを知り、ロゼッタは今の気持ちを伝える事にした。


「あの、少しだけ聞いてもらっても良いですか?」

「うん」

「――最近、願っていたことが叶って嬉しいはずなのに、何故かそれが辛いと感じてしまうんです」

「……」

「叶った方が良いはずなのに――」


 カイルはロゼッタの気持ちを真剣に受け止める。


「願いが叶って嬉しいはずなのにか……。難しいね。でもさ、辛いって思うって事はさ、本当は心のどこかで叶わないで欲しいって思ってるからだとオレは思うよ。ロゼッタ嬢が何を願って叶ったのかは分からないけどさ」

「……」


(叶わないで欲しいか……。なんで私そう思ってるんだろう? アスベルトとマリナが結ばれれば、私がアスベルトと結婚しなくてすむ。それに、愛されないまま結婚したって辛いだけ。……あれ? なんで私“愛されないまま結婚したって辛い”って考えたの?)


 するとリゴーンリゴーンっと庭園に鐘の音が響き渡る。


「もう、昼休憩も終わりかー。戻ろっか!」

「はい」


 椅子から立ち上がり、2人で一緒に出入口に向かう。

 庭園を出るとアスベルトと遭遇する。


(アスベルト)


 ロゼッタは、アスベルトの姿を見た瞬間に胸がドキッと跳ね上がった。

 そして直ぐにマリナの存在を思い出し、彼女の姿を探すが何処にも見当たらなかった。


(アスベルト一人だけ? マリナは?)


 ロゼッタがそんな事を考えている間、アスベルトの顔が少し不機嫌になっていく。


「カイル、お前今まで――」

「あっ! オレ、教室に早く戻らなくちゃダメだったんだ! じゃー、オレはこれで!!」


 カイルはアスベルトの言葉を途中で遮り、急いでこの場から逃げ去った。


 逃げていったカイルを見て「はぁ」とアスベルトが息を吐く。


「あの……カイル様を攻めないであげてください。元はと言えば私が悪いので。それでは、私もこれで――」


 ロゼッタも直ぐにこの場から離れようとすると、アスベルトに呼び止められる。


「ロゼッタ!」

「!?」

「いや、その……」


 アスベルトは少し言いづらそうにしていたが、何かを決意したかのように真剣な目でロゼッタを見る。


「ロゼッタ、昨日はすまなかった」

「え?」

「怖い思いをさせてしまったから……」


 アスベルトから再び昨日のことで謝られるとは思っていなかったため驚く。


「アスベルト様。昨日も言いましたが、気になさらないでください。私が――」

「……ロゼッタ、君の本当の気持ちを教えて欲しい」

「……」

「君が俺に心を許してしない事は知っている。でも、少しでも良いから……」


 普段のアスベルトからは信じられないぐらいに弱々しい彼をみてロゼッタは、本当のことを言うことにした。


「――アスベルト様。確かに昨日は怖い思いをしました。それに正直、アスベルト様のお誘いを断れば良かったとも思いました。でも、市街地に行きたかったのは嘘ではありません。本当に行きたかったから……」

「そうか……」


 先ほどのアスベルトは違い、少し嬉しそうな笑みを浮かべる。


「もう、時間も無い。戻ろう」

「はい――」


 ロゼッタは、少し嬉しそうに笑みを浮かべるアスベルトを見て、心臓がドキドキと鳴る。


 少し前を歩いているアスベルトを無意識に止めてしまう。


「あの!」


 ロゼッタに呼び止められたアスベルトは彼女の方に振り向く。


(何で、私アスベルトを呼び止めちゃったの?)


「えーと……」


 無意識のため何も考えていなかったため、何を話すが悩んでいると、口が勝手に先ほどのマリナとアスベルトの事も聞く。


「あの、私先ほど見てしまったんです。温室でロビンソンさんがアスベルト様の胸に飛びついていたの」

「!?」

「あれって……」

「ロゼッタ。あれは、彼女が石に躓いて転びそうになっただけだ」


 アスベルトは間髪を入れずに説明する。


 躊躇(ちゅうちょ)無く答えたアスベルトを見て、ロゼッタはほっとする。


(あれ? 何でアスベルトとマリナが何も無かったって知ってほっとしてるの? これじゃまるでアスベルトのことが――)


「好き……」

「え?」


 アスベルトにはロゼッタがぼそっと言った“好き”と言うこと言葉は耳には届いて居なかったようだ。


(私、アスベルトの事いつの間にか好きになってたんだ。だから“愛されないまま結婚したって辛い”って思ったんだ。私が彼を好きだったから……)


「教室に戻ろう」


 自分の気持ちに気付いたロゼッタは、先を歩いているアスベルトの背中を切なそうに見つめる。


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