21. 夢
あれから、直ぐにアスベルトの馬車でファームス家に帰ってきたロゼッタは早々に自室へと向かう。
自室に着くと部屋着に着替えること無く、そのままベットに向かってうつ伏せで倒れる。
「疲れた……」
(アスベルトの前で泣いてしまうなんて……)
そして、疲れからロゼッタはそのままの体勢で眠りにつき夢を見た。
*****************
木々に囲まれている校内の誰も居ない庭園で、アスベルトとマリナが何かを話している所だった。
「何故、俺を避けようとする!?」
「だって、アスベルト様にはファームス様が――」
アスベルトはマリナが最後まで喋り切る前に、彼女の腕を掴み自分の胸に引き寄せ強く抱きしめる。
「っ――」
「――聞いてくれ! 俺は、彼女の事を一度たりとも好きになったことなどない! 婚約だって親同士が勝手に決めた事だ。ロゼッタとの婚約はなんとかする」
「……」
「俺は君に出逢って変わった。俺の世界を変えたのは君だ! マリナ、俺はこれからも君と一緒にいたい。だから、俺とこれからも一緒にいて欲しい」
「……」
「俺には、君しかいないんだ」
アスベルトの想いを聞いたマリナは、頷くことしかできなかった――。
その場面を見ていたロゼッタの胸はズキッと痛む。
(胸が痛い……)
そして今度は、校内に在るパーティーホール。
大きなホールに500人以上の学生や教師らがドレスコードをして、楽しそうに会話をしている中、ロゼッタは出入口に近い所で一人ぽつりとその場にいた。
すると、出入口からアスベルトとマリナが揃って中に入ってくる。
その光景を見た者はみんなアスベルト達に目を向ける。
「あれって、殿下と光属性の?」
「ロゼッタ様。確かに今回は、アスベルト様と同伴されて無かったですものね」
「やっぱり、あの噂は本当だったのかしら?」
「あー。ファームス様がアスベルト様に愛想を尽かされて婚約破棄にされるって言う?」
「そうそう」
令嬢達のヒソヒソと話す声は、ロゼッタの耳にも届く。
(これって――)
そんな令嬢達の会話を気にすること無く、アスベルトはマリナを連れてロゼッタの目の前までやって来た。
ロゼッタの目の前で止まると、アスベルトはここにいる全員に聞こえるような大きな声で言い放つ。
「ロゼッタ・ファームス。今夜限りで、君との婚約は破棄する!!」
アスベルトが放った言葉で会場が一気に静まりかえった。
「君は、彼女がこの学園に入学して以来、ずっと嫌がらせをしていたらしいな。そんな、女を次期王妃に迎えることなど出来ない!!」
「……」
「この婚約破棄、そしてこれから伝える処分については、国王、そして、君の両親も了承したことだ。今から君に処分を言い渡す! ロゼッタ・ファームス、君を国外追放とする!」
アスベルトの言葉で先ほどまで静かだった会場が再びざわめきだす。
「ロゼッタ、この結果を招いたのは自分自身だと言うことを忘れるなよ」
「……」
アスベルトは害虫を見るような目でロゼッタを見る。
その、目を見たロゼッタは辛いと感じた。
そして、願ってやまなかった国外追放と言う言葉。しかし今は、この言葉を聞きたくなかったと思った。
すると、辺りが急に漆黒の闇に包まれ先ほどの光景はなく、アスベルトだけがぽつりとそこに立っていた。
「これは君が望んだことだろ? 俺とマリナをくっつけさせて婚約破棄をし国外追放を願った。いまさら何悲しい顔をしている?」
「悲しい顔……」
アスベルトに言われ自分が今にも泣き出しそうな悲しい気持ちになっている事に気が付く。
「何で?……」
****************
「っは!」
そして、夢から覚める。
「なんで、ゲームのイベントの夢なんて……それに何で断罪イベントが辛かったんだろう……」
それから、ロゼッタはなかなか寝付けず気が付くと朝になっていた。
「もう朝……あれから一睡も出来なかった」
ロゼッタは「ふぁー」っと大きなあくびをした後、学園に行くために準備をし始める。
△
授業を聞いていると、さらに眠気が襲ってくる。
昼休憩に入り、少しでも仮眠をとろうと柔らかいソファーが置いてある温室に向かうことにした。
温室は、学園の敷地内にはあるが校内から少し歩くため、昼休憩に生徒がここに来ることはめったにない。
「やっと着いた」
ロゼッタは、念のため室内に誰か居ないか確認しようと、全面ガラス張りの温室を外から覗く。
しかし、植物のツタや木が沢山有り中の様子が見づらくなっていた。
どこからか見れないかと見渡していると、一カ所だけツタも木も無い場所を見つける。
そして、そこから中の様子を伺うことにした。
伺っていると、室内にアスベルトとマリナが一緒に居るのが目に入ってくる。
(アスベルトとマリナ?)
二人が一緒に居るのを見て、ロゼッタは夢の事を思い出し胸が締め付けられ、ズキズキと痛む。
そんな時、マリナがアスベルトの胸に飛び込むのが目に入ってきた。
「っ!」
そんな2人をこれ以上見たくないロゼッタは、直ぐにこの場から去ろうとくるりと向きを変えそのまま走って去ろうとした時、後ろに居た人物とぶつかってしまった。
「っい!」
「ごめん! 大丈夫?」
ロゼッタは直ぐに顔を上げると、そこには申し訳なさそうな顔のカイルがいた。
「カイル様……。申し訳ありません。私はこれで……」
カイルは今にも泣き出してしまいそうなロゼッタを見て驚く。
「ごめん。痛かったよね」
「いえ……」
歯切れの悪いロゼッタを見て、カイルはチラリと温室を見る。
そこには先ほどの光景は無く、マリナとアスベルトが一緒立っているだけだった。
「とりあえず、場所変えよっか」
「……」
そして、ロゼッタはカイルに連れられて、ここから一番近い庭園まで歩いた。




