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20. 市街地視察3

 マリナは放心状態のロゼッタを見てどこかに座らせようと思い再び立ち上がり、回りをキョロキョロと見渡す。

 すると、何かを思い出したかのような調子で「あっ!」っと声を出す。


 マリナは、市街地に何回も来たことが有ったため、目の前の露店から少し離れた所にベンチが置かれている場所が在るのを思い出した。


「ファームス様。場所を移動しましょうか。立てますか?」


 マリナは少し屈み目の前のロゼッタに手を差し伸べる。

 ロゼッタは、差し出された手を掴み立ち上がろうとするが、上手く身体に力が入らなかった。


「っ……」

「ちょっと待ってください」


 そう言うとマリナは、あまり口を開かずにボソボソと何かを喋り始める。その声はとても小さく、ロゼッタの耳には何を言っているのか聞こえなかった。


 マリナの小さな声が聞こえなくなると、ロゼッタは自分の身体が暖かくなっていくのを感じた。


「これで、立てると思います」


 マリナに言われ、もう一度立ち上がろうと身体に力を入れると、先ほどの事が嘘のように直ぐに立ち上がることが出来た。


「何で……?」

「……ちょっと光魔法を使いました」

「光魔法を?」

「はい」


 ロゼッタは、まさかマリナが光魔法を使って自分を癒やしてくれるとは思っていなかったため驚く。

 基本的に学園の許可なく学生が勝手に魔法を使うのは禁止されている。


 ただここには、ロゼッタとマリナしか居らず、2人が黙っていればバレる事は無い。

 だが、ロゼッタは自分のせいで規則を破られてしまった事を申し訳なく思う。


「申し訳ありません」

「そんな! 私が勝手にしたことですので気にしないでください!」


 そう言うとマリナは、にっこりとロゼッタを安心させるように微笑む。


 それから、マリナに案内されながらお店の外に居た護衛と一緒に、ベンチが在る場所までやって来た。


 そこは、円になっている地面の真ん中に噴水が在り、その前に3人掛けのベンチが1つ在るだけだった。


 幸いにもベンチには誰にも座って居なかったため、そこにロゼッタを座らせるとマリナも一緒に横に座る。


 一緒に居た護衛は、アスベルトにこの場所を教えるため再び先程居た裏路地に向かっていった。


 護衛がいなくなるとロゼッタが口を開く。


「――ロビンソンさん。ありがとうございます」

「いえ。もう、大丈夫そうですか?」

「えー。ご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんて! そんな事全然無いですよ! ファームス様がご無事で本当に良かったです。これもアスベルト様が直ぐにファーム様がお店の中に居ない事を気がつかれたおかげです」


(アスベルトが直ぐに……?)


 ロゼッタが不思議そうな顔をすると、マリナは先ほどのアスベルトの行動を細かく説明する。


 **********


 ロゼッタと別れた後、2人は3階から順番に見て回ることにした。


 そして、階段付近に立っている護衛に「もし、ロゼッタがこの階に来たら教えてくれ」とお願いしていた。


 しかし、ロゼッタが来たと言う報告が無かったため、2人は買い物を済ませロゼッタを迎えに一階に向かった。


 一階に着いてロゼッタを探すが見つからなかった。


 念のため、アスベルトが階段付近に居た護衛に確認する。


「ロゼッタが階段を登ってくるのを見なかったか?」

「いえ、私は見ておりません」

「そうか……」


 マリナはトイレでも行ったのかな?と思っていたが、アスベルトはそうとは考えていなかった。


 彼は直ぐに外で待機していた護衛に「ロゼッタを見なかったか?」と聞くが、護衛は見ていないと伝える。


「マリナ、すまないがロゼッタを一緒に探して欲しい」

「ファームス様をですか?」

「あー。何故か嫌な予感がする」

「分かりました」


 そして2人は、露店の売り子達にロゼッタが今日着ていた服や特徴等を伝え聞き込みを始める。


 すると直ぐに、ロゼッタらしき人物が「柄の悪そうな男達と一緒に居た!」と言う情報が入って来た。


 その情報を聞くと、アスベルトは直ぐにロゼッタ達が向かったとされる方向に一直線で走った。


「アスベルト様!」


 マリナが一生懸命走っていると、ちょうどロゼッタが路地裏に連れ去られそうになっている所だった。

 それを見たアスベルトの走りがさらに早くなり、マリナは追いつくので精一杯だった。


 **********


「それから、ファームス様が知っている通りになります」

「……」


 それから少しすると、アスベルトが護衛達を連れて噴水広場に向かってくるのがロゼッタの目に入ってくる。


 アスベルトはロゼッタの目の前で止まると、その場で跪き顔を上げる。


「え?」

「すまなかった。俺が君を市街地の視察に誘ったせいで怖い思いをさせてしまった。それに、あの店でも一緒に店内を見れば良かった――」


 アスベルトは眉間をへの字にして申し訳なさそうな顔をする。


 そんなアスベルトを見たロゼッタは、いたたまれない気持ちになり、言葉が勝手に出てきた。


「そんな! アスベルト様のせいでは有りません。お誘いを受けたて市街地の視察に来ようと思ったのは私の意思です! それに私が勝手に、お店の外に出てしまったから……」

「……」

「ーー先ほど、ロビンソンさんから聞きました。私が店内に居ない事を直ぐに気付かれたって。私がこうして、無事にここに居るのはアスベルト様のおかげです。謝らないと行けないのは私の方です。アスベルト様にもロビンソンさんにも迷惑をかけてしまいました」


 ロゼッタは話しながら先ほどの恐怖を思い出したが、2人に心配掛けまいと表情は出さなかった。

 しかし、身体は正直で手がぶるぶると震える。

 それを隠そうと、自分の両手を強く握る。


 それを見たアスベルトは直ぐにロゼッタの手に自分の両手を軽く添える。


「ロゼッタ、無理をしなくていい。怖かったなら怖いと言って、俺を頼ってくれ」

「……」


 アスベルトの「頼って」と言う言葉がロゼッタの心に刺さり、涙が溢れ出てくる。


 そんな姿をみたアスベルトはロゼッタの手をぎゅーっと掴む。

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