14. 久しぶりの学園
アスベルトが曇った表情をして、帰って行ってから3日が経った。
あの日以来、彼がファームス家に来ることは無かった。
そしてロゼッタは、あのアスベルトの表情が頭から離れずにいた。
(はぁー。今日から登校しないとダメなんだよね……。どんな顔をしてアスベルトと接すれば良いの?)
体調が良くなっているのは、両親や侍女達は知っているため仮病も使えず“行きたくないなー”と思いながら、ロゼッタは渋々と登校する。
教室に入ると、着席して何かの本を読んでいるアスベルトの姿を見つける。
(もう、来てたんだ)
ロゼッタがアスベルトを見ていると、後から来たカイルに話しかけられる。
「あれ? ロゼッタ嬢? 風邪はもう治ったの?」
「え?」
カイルが何故それを知っているのかと思い目を丸くする。
「アスベルトから風邪を引いたって聞いたから」
「そう、だったんですね……」
「訓練室に閉じ込められた翌日からだったから、心配してたんだ」
今まで、アスベルトの曇った表情が気になっていたため、すっかり訓練室での出来事を忘れていたロゼッタだが、カイルの言葉によってその時の事を思い出す。
(今まで、忘れてた……。そうだった、私アスベルトに抱き寄せられたんだった!)
「ところで、もう体調は平気なの?」
「あっ――はい。もう平気です。ご心配をおかけしました」
「そっか。良かった」
カイルは安心した表情をすると、アスベルトが座っている方に向かって歩いて行く。
その後ろ姿を見ていたロゼッタの視界に、少し不機嫌そうな顔でこちらを見ているアスベルトの存在に気がつく。
(え?)
ロゼッタは直ぐに、アスベルトから目をそらし自席に向かう。
△
――授業が全て終わり、帰る支度をしているとアスベルトが席までやってくる。
「ロゼッタ、この後少し良いか?」
「――はい」
普段と変わらない態度で接してきたアスベルトに対し、ロゼッタは少し安心する。
アスベルトの後ろを付いて行くと、見覚えのある階にたどり着く。
そこは、ロゼッタがマリナを閉じ込めようとした訓練室が在る階だった。
(!?)
ロゼッタは不安を抱えつつも付いていくと、訓練室の前に居る人影を見つける。
近づくにつれはっきりと分かってくる。
そこには、マリナとカイルが居た。
(マリナとカイル!?)
少し前を歩いていたアスベルトを見るが、特に変わった様子は無くすたすたとマリナ達に近寄る。
「すまない。待たせた」
「いえ。私たちも先程、着いたばかりですから」
(どう言うこと? 待ち合わせしてたって事? しかも、訓練室の前で?)
上手く状況が飲み込めていないロゼッタに、アスベルトが顔を向けてくる。
「すまない。ここに閉じ込められて怖い思いをしたと思うが……聞きたいことがあって来てもらった」
「聞きたいことですか?」
「そうだ。ここなら誰にも聞かれる心配は無いから――もし、何かあったら言ってくれ」
ロゼッタは、いつもと変わらない平然とした態度で接していたが、心臓がバクバクと音を立てていた。
その理由は、アスベルトが言った“怖い思いをした”からではなく、訓練室の前で“聞きたいこと”と言われ、何を聞かれるか分からない不安からだった。
全員が訓練室に入り、扉が閉まるとカイルが口を開く。
「アスベルトがさっき言ってた、ロゼッタ嬢に聞きたかった事なんだけど……」
ロゼッタの鼓動がさらに早くなり、手汗もかいてくる。
「思い出したくないかもだけど……いきなり突風が現れて、ロゼッタ嬢がそれに押されて転んだって聞いたんだけど本当?」
「え?」
今度は、アスベルトが話す。
「君が、突風に押されて室内で転んだとマリナから聞いた。本当か?」
マリナがここに居る以上、嘘をついても意味はないと思いロゼッタは正直に話す。
「ーーはい。本当です」
「そうか……」
ロゼッタの回答を聞いてカイルが話し出す。
「そのあと、直ぐに外側から鍵を掛けられたんだよね?」
「はい」
「ねー。その、鍵を掛けた人物とか見なかった? もしくは、突風が現れる前に怪しい人物を見たとか、来る途中に誰かにつけられてたとか」
「え?」
カイルの質問の意味が分からずにいると、再びアスベルトが話し始める。
「マリナにも先ほどと同じ質問を聞いたが、見ていないと言われた……。あの時、君は何か見たか?」
「いえ、特には――」
「そうか……分かった」
そして、アスベルトはカイルに目で何かを合図する。
「あー。それと、もう一つ聞きたいことがあって――。公爵家の令嬢でアスベルトの婚約者だから色々と僻んでくる人物とか居ると思うけど、その中でも特に誰かに恨まれてるって感じたこととかない?」
「え? ありませんけど……」
「そっか。ありがとう」
そう言うと今度は、カイルがアスベルトに目で何かを合図する。
「分かった。来てもらってすまなかった。もし、何か思い出したら俺じゃ無くても良いからカイルかマリナに言ってくれ」
「? 分かりました……」
「もう、用はすんだから帰ってもらってかまわない」
「……分かりました」
(てっきり、訓練室を貸切にした理由や、マリナと一緒にいた理由を聞かれると思ってたけど……)
いつの間にか不安が消えていたロゼッタは、帰ろうと扉に向かっているとマリナに呼び止められる。
「あの! ファームス様、少しお時間宜しいですか?」
ロゼッタは、マリナの後ろに付いて廊下を歩いていると、急に彼女がその場に立ち止まり振り返られる。
「ファームス様にはお話ししていた方が良いと思いまして……あの日、ファームス様が訓練室を貸切りにしていたとアスベルト様から聞きました……」
「そう……」
「それで、アスベルト様に「知っていたか?」と聞かれまして、知っていると答えました」
「え?」
ロゼッタの肩に力が入る。
「あ! 大丈夫ですよ。本当の事は言っていないので、安心してください! えーと、無属性の訓練を教わるためと答えました」
「無属性を教わる?」
「はい」
無属性とは、それぞれ個々の属性以外で全員が使える魔法のこと。そんなにたいした魔法では無いが、魔法の実技試験では必ず出される。
そして、ロゼッタは無属性の魔法が得意だった。
「……何で、そんな嘘を?」
「それは、本当の事を言ってアスベルト様とファームス様の関係がこじれるのは嫌だったからです! それに、そんな噂が流れたのは全部、私のせいなので……」
「え?」
(アスベルトと私の関係は、もうこじれてると思うし。噂はゲームのシナリオ通りなのに……)
ロゼッタがそう思っているとマリナが再び喋り出す。
「あの、それだけお伝えしたくて。私、もう戻りますね」
マリナはそれだけを言うと、訓練室の方に向かって歩いて行った。
マリナが言った自分とアスベルトの関係に少し疑問が残るが、ロゼッタはそのまま帰ることにした。




