第一話
前略、異世界に転生しました。
目を開けると、見たこともない景色が広がっていた。だだっ広い野原、地平線が見える。
あれ、俺さっきまでコンビニで買い物してたよな?
カップラーメンと肉まん買って、そんで…
あっ、そうだ。俺、帰り道でトラックに轢かれたんだわ。いきなり歩道に突っ込んできて怖かったわぁ。俺、死んだのかな?
それがどうしてこうなった。
俺は上下スウェット、綺麗な景色、空には見たこともない鳥、そして少し先の地面にはゆっくり動き回る透明なブヨブヨ。…あれがスライムってやつか?
「ほほう、さてはここ、異世界というやつだな?」
妙に納得がいってしまった。前の世界にもそろそろ飽きてきた頃だったし、ちょうどいい。夢だったらそれはそれでいいだろう。
と、こんな具合で第二の人生を、異世界で歩み始めたわけだ。
この世界に来てから今日で1ヶ月くらい。どうやら夢ではなかったらしい。この世界はいわゆる王道ファンタジーまっしぐらなようだ。スライムはいるし、スライムに襲われてた時に助けてくれた人は杖から火の玉出してたし。まさに剣と魔法のファンタジーってか。
そういえばまだ名乗ってなかったな。俺の名前は樋口亘。この世界では苗字をもつのはごく一部の上流階級のみらしいから、ワタルで通してる。
俺は何してるかって?今は野原を駆け回ってモンスターと戦ってる。どうやらこの世界では冒険者という職業が割と一般的らしい。モンスターを倒したり、薬草を採ってきたりして日銭を稼いで生きていく。俺は通りすがりの優しい冒険者から護身用にともらった剣で、スライムなんかの小型で弱いモンスターをひたすら倒し、素材を町の質屋に持っていくことで生活資金を得ていた。
幸い言葉は通じるし、文字も読める。早いとここの世界に馴染んで、「普通の生活」を手に入れたいものだ。
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26年前、俺、樋口亘は、上場企業幹部の父と教師の母の間に生まれた。
幼い頃から物覚えがよく、成長の早い子どもだったようだ。小さい頃から人並み以上に運動も勉強もできた。いつも駆けっこは一番、テストもクラス1位。周囲には常に人がいるような子どもだった。小中とバスケに勤しみ、市選抜には選ばれた。
県内トップクラスの公立高から有名私立大に進み、外資系企業の営業マンになった。
高い成績を残し、仕事後は毎週のように合コン。モデル・女優なんかと一夜を明かしたこともある。
自分で言うのもあれだが、俺はかなり高いレベルの人間だ。いつだって人に期待されて、それに応えてきた。充実した非凡な日々を送ってきた。誰がどう見ても、「平均以上」の人生だといえるだろ。
……本当はこんなことしてる自分が嫌だったりしたんだ。
運動ができたから父がやっていたバスケをやらされたけど、本当は本やアニメや映画が大好きで、暇さえあれば観ていたかった。友達は常に外で遊んでいないと気が済まない人種ばかりで、その誘いを断ることもできず…。
本当に自分のやりたいことをできない人生だったなあ。運動や勉強なんて人並み程度でよかった。「普通」でよかったんだ。どこで間違えちゃったんだろ……。
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……せっかく新しい世界でやり直せるんだ。
「絶対!普通の生活を手に入れてやるぅ!」
そう固く誓った。
つづく。