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第9話 啓介の危機

いやはや、何というべきだろう…

俺が悪いと言えば俺が悪い。

すっかり頭から抜けていた。

だがこんなことが起こるとは思ってもいなかった。

少なくともこれさえ起らなければ完璧に注意できていたはずだ。

…いや、ifの話をしても仕方がないだろう。

起こってしまった、それが結果であり、結論だ。

現行犯であることには違いないのだから、言い訳はできない。

つまるところ、詰み、である。


「一体どういうことか、聞かせてくれるわよね?」


目の前の恩がある家族の一人である綾子に俺はびくびくしながら正座していた。

なんで…なんで俺はあの時、ここまで思考が回らなかったのであろうか…

あそこで頭が回っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに…


~数分前~


「一応忠告だが、綾子に気付かれるんじゃないぞ。寝起きとか来るんだからな」


「わーかってるって!何回目よ!私はそんなへましないわよ!」


「転校初日から二日目にかけてあれだけのことをしたってのに信頼しろと?怖くて仕方ないぞ…」


あれから、俺たちは注意を聞かせながら帰っていた。

こいつは何をしでかすかわからない以上入念に言い聞かせたが、それでも不安はぬぐえない。


「転校初日からもう2週間以上経っているじゃない!信頼を取り戻せていてもいいと思うのだけど!?」


「一度崩れた信頼を立て直すのは難しいってことだよ…」


こいつに注意をしているのには急な行動で俺を貶めようとしてくる節がある、という立派な理由がある。

しかし、本人に言ってないだけで実はもう一つ理由がある。

…こいつは、少しおかしい。

頭がおかしいのではなく…言葉にするのは難しいのだが、同じ時間に別の存在と会話をしている気がするのだ。

自分でも意味が分からないが、要はこいつは何か隠している気がする。

青い桜の木の前で、時折こいつが別の存在に感じる。

碧音という存在と話しながら、碧音が目の前にいない気がするのだ。

こいつを家に上げたくなかったのも、警戒しているからだ。

しかし、同時にチャンスでもある。

こいつと一緒にいれば、その違和感について知ることができるかもしれない。

……

いや、何を考えているんだ俺は…

ふと自分がおかしなことを考えていたことに気が付く。

俺はいったいいつからこんな考えに至ったんだろうか?

なぜ他人のことを知ろうとしているのだ?

俺はどこでそんな考えに…


「ほら!立ち止まらないで!ここがあなたの部屋なの?」


ふと気が付くと自分の部屋のドアの前に突っ立っていた。

俺は思考を切り換え…


「あぁ、すまん、ぼーっとしてた。ここが俺の部屋だぞ」


「そっかー、それじゃ、鍵貸して!入るから!」


「馬鹿か、自分で開けれるわ」


なんて言って、俺は鍵を取り出し鍵穴に刺そうとする。

すると…

ガチャリ

と鍵が開く音がした。


「「えっ…」」


急に扉が開いたのだから驚きを隠せない俺と碧音。

目の前から出てきた人物はというと…


「あら啓介、おかえり!強雨は少し遅かった…わ……ね?」


俺一人しかいないはずの玄関に転校生があることに言葉を失う綾子。

俺は碧音に先に何か言われてはいけないと思い…


「これは誤解だ、話をすればわかる!!」


と、交渉を試みた。

しかし当の本人は唖然としたまま。

話など聞いてはいなかった…

ど、どうしよう!?どうすればいい!?

そんなことを考えていたせいで油断してしまっていた。

隣にいる碧音が口を開いた。


「と、とりあえず入ろ?啓介」


明らかになかったことにしようとする碧音。


「いや、無理がある」


「私も交えて、よーくお話ししましょうか」


俺の言葉を遮るようにして口を開いた綾子。

その言葉には少なくとも殺気めいたものを感じた。

おわった…そう思いながらも俺は自分の家に入っていくのだった。


~現在~

「いや、そのな?一から話すからちょっとその怖いオーラをしまってくれませんか?話しにくくて…」


俺は冷静に話を聞いてもらうために、言葉を選びつつ綾子に促した。


「まあそうね、話を聞いてからキレても遅くはないわよね」


「キレること前提かよ…仕方ない、碧音、お前から話してやってくれ。これはお前の問題だ」


そういって説明を放り投げる俺。


「私から頼んだんだよ?家出したから泊まらせてって」


「家出!?なんで家出なんかしちゃったの!?」


家出、という言葉に動揺を隠せない綾子。

当然である。

俺もその発言には驚いた。

しかし、俺も理由は聞いてなかったような…


「うぅ…理由ですか…知りたいですか?」


「あーごめん!辛かったよね!聞いちゃってごめん!」


涙ぐんでいる碧音を見て思わずあたふたし始める綾子。

いや、どう考えても演技だろ。

そう思うと一瞬ニヤリと笑みを浮かべた碧音を見てしまった。

こいつ…恐ろしい!


「どーしましたか?啓介さん?」


「なんでもない!!」


全力の否定。

おそらくいかにも怪しげな笑みを浮かべた瞬間を見られたのだろう。

俺は、正直に言うことなんてできなかった。

こいつ…恐ろしい!

同じことを二回も考えるほど、俺はこの女を恐ろしく感じているのだった…

しかし、綾子はまだ質問が残っていた。


「家出したから泊めてもらうのはわかったわ。でも、男女での寝泊まりはさすがに許せないわ」


「いやお前たまにしていくじゃねーか」


思わずツッコミを入れる。

許可なく困っていくこいつに呆れたことだってあるのに…!


「えー!いいじゃん!私は啓介にお礼がしたいの!」


「啓介にお礼?あんた何かしたの?」


「勉強を教えてただけだ。テスト期間中、家に帰るのが遅かったのはそれが原因だっただけだ」


「そう…啓介が」


少し思うところがあったかのような口ぶりだ。

何があったのか詳しく聞きたいが今は碧音がいる。

言いにくいことだったりするかもしれないし、余計な詮索はよそう。


「まあそれは言いとして…男女の寝泊りは何があろうと禁止よ。感謝ならもっと別の形で伝えなさい」


そこは正論を言う綾子。

常識力があるのかないのかよくわからないやつだ…


「あなたは、私と啓介が一緒に寝泊まりするのがいけないというんですか?」


「そうよ、生徒会長として、認められないわ」


…言い忘れていたが、こいつは生徒会長なのである。

俺にとっては、『こんなやつが…』と思ってしまうが、実際、こいつは真面目なのだ。

…という評価を受けている。

ちなみにテストでは勝ったり負けたりを繰り返している。

今回のテストは俺がギリギリ勝ったが、わずか3点差である。

まあ、成績もよく荒廃からの信頼もあついこいつが生徒会長になれたのは、当然のことであった。


「じゃあ、こうしましょう?」


突然、碧音が自分のポケットからトランプを取り出した。


「いやおまえポケットになに入れてんだよ」


「外野は黙っていてください?啓介さん(・・)


「……」


こいつは、今までさん付けで俺のことを呼んだことなどなかった。

ゆえに、この発言は、俺の言葉を止めるには十分だった。


「私と、ポーカーで勝負しましょ?あなたが勝てば、文句を言わずあなたの要求を飲みましょう」


まるで悪役のようなセリフだ。

しかも挑発が分かりやすい。

こんな挑発に乗るやつがいるわけ…


「受けて立つわ」


もしかしてここにいるやつでまともなのは俺だけなのだろうか。

いや、俺もそんなにまともではないか…

そしてその勝負を始めるために碧音がシャッフルを始める。

……ん?

そこで、碧音のシャッフルに違和感を覚えた。


「あのシャッフルは…確か」


「何でしょうか?啓介さん(・・)


「いえ何でもございません」


危うく声が出てしまった。

しかしこの勝負、綾子が勝つことはないだろう。

…フォールスシャッフル。

カードを混ぜたように“見せかける”シャッフルのことだ。

実際には移動しているカードは半分に分けたうちの真ん中の数枚だけなのだが、勝負にはさして影響は出ない。

しかし……言ったら怒られてしまうだろう。

俺もいつの間にか少し甘くなってしまったのかもしれないな。

ふとそんなことを思った。

そんなこんなでカードを配る。

俺は碧音の手元を見ていると…

Aのファイブカード。

完全無比の役がそこに完成していた。

綾子の役をチラッと見てみると…

ハートの6から10、ストレートフラッシュだ。

こいつ、かなり運がいい。

…いや、違うか。

あきらめさせるように碧音が心を折りにいったのだ。

これは…勝負あったな。


「あなたは変えなくていいの?」


綾子が挑発をするような口調で碧音に聞く。


「ずいぶん余裕なのね、私はこのままでいいわ」


そりゃそうだ。

最強の役が完成しているのだから変える必要がない。


「私もノーチェンジよ。それじゃ、悪いわね。私の要求、呑んでもらうわ」


そうして勢いよくカードを表にする綾子。

そりゃそうだよな…

普通、ストレートフラッシュなんてあまりお目にかかれない。

出たらまあ負けないような、そんな役だ。

だが、イカサマをすれば話は別だ。

つまりこの勝負…


「私の勝ちね!私はAのファイブカード!」


「なっ!?」


当然、こうなるよな…と、思ってしまった。


「私の要求、通してくれますよね?」


満面の笑みでそう言う碧音に俺は頭を抑えるしかなく…綾子はいまだに信じられない、というような顔をしていた…

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