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第8話 同居

前日の勉強から俺はテストの日まで毎日教えることになった。

初めは面倒だったが物覚えがよくて教えた甲斐があった。

そんなこんなでテストも終わり、俺は無事に学年10位以内を死守。

なんなら3位という好成績を収めた。

対する碧音もどうやら赤点を回避したらしい。

喜んでいる碧音をみて俺も少し気持ちが和んだ。

そんなことを考えていると


「あ、そうだ啓介、教えてくれたお礼がしたいの!」


急にそんなことを言ってくる碧音。

ちなみに今は放課後であり桜の木の前なので誰にも見つかることはない。

学校では遠慮することを認めてくれたのか、必要なことや桜の前に集まるくらいの話しかしなくなった。

その分ここでは話に付き合っているのだが…


「いやお礼なんていらん、お前からのお礼とか怖い」


「失礼すぎるよ!?」


いや知り合って数日のやつからお礼とか何か裏があると思うだろう。

仮に長く付き合ってても感謝は言葉で事足りるだろう。

少なくとも俺はお礼なんて望んでないし、頼まれた(状況的にそうさせられた)からやっただけだ。

言葉の感謝があるだけでも十分だと感じている。


「それでもいらん、感謝の言葉で十分だ」


俺は突き放すように言葉を発する。

しかし碧音も一歩も引かず


「いいじゃん!家出までしてきたんだからお願い!」


……。

は?

家出?

いったい何を言ってるか意味が分からないが…

よく見ればすぐ後ろにどこかに宿泊しに行くかのような大きなバッグがあった。

これが何を意味するのか…

嫌な汗が流れた。

俺は恐る恐る口を開いた。


「まさか、俺の家に泊まりに来るわけじゃないだろうな?」


「え!?よくわかったね!その通りだよ!」


「…お前なあ」


こいつは馬鹿なのであろうか?

いや、それは初めからわかっていたことだが、よもや思春期の男子の家に泊まりに来るとは。

こいつには危機感というものがないんだろうか。


「結論から言うが駄目だ、そもそも何の関係でもない思春期の男女が同じ家に泊まるのはいろいろ危ない。」


「それってつまり私のことを襲っちゃうってこと…?/////」


「違う!照れるな顔を真っ赤にするな!」


こいつはなぜひとりでに思考が突っ走ってしまうのだろう。

思わず頭を抱えそうになる気持ちを懸命にこらえて


「俺だって思春期の男子だ。お前を襲うつもりなんてさらさらないが、世間的に見れば危険だ」


それに、と俺は付け加えて


「家出なんだろ?感謝云々の前に拾ってほしいだけなんじゃないのか?」


「ご名答!私は寝泊まりできる家がほしいだけであります!」


「はぁ…」


まぁ、言いたいことはわかる。

しかし俺の家に上げるつもりは全くない。

ならば…


「ならいい案がある」


と俺は少し声のトーンを変えて、勝ちを確信したように言葉を紡ぐ。


「俺の家はマンションだ、そしてマンションの経営をしている水野家、という仲のいい家の人たちがいる。その人達の中には同じ学校に通っている奴もいる。そいつの家の一部を借りるなりマンションを一部屋借りるなりするといい。そうすれば俺の部屋にわざわざ来ることもない、どうだ?いい案だろ」


俺はこのときこれであきらめてくれると確信していた。

だから次の一言でまた俺は頭を抱えることになるのだった。


「でも私がしたいのはお礼だよ?啓介以外の誰かにお礼することなんてないし」


「……」


なるほど、衝撃的過ぎて直前のことが頭から抜けていたが、こいつは俺にお礼がしたいのだった。


「家にでも止めてくれたら私…何でもしてあげるよ?/////」


「だから顔を赤くするな、それにお前にそんなことするわけないだろ」


「じゃあどうやったら啓介の家に泊まれるの!?」


「いやだから泊めないって」


こいつはいい加減言っていることを理解してほしい。

こっちが折れるまで言い続けるだろうが、俺はそれでも泊めないと誓う。

あいつのことを思えば、ここで引くわけにはいかないのだ。


「うーん、でもここで寝るとかいやだよ?」


「そりゃ俺だっていやだよ」


「ほかに頼る当てがないんだって!お願い!」


いよいよほかに手段がなくなったのか涙ぐみながらお願いしてくる。

それだけでも心が少し痛くなったが、なんと土下座の姿勢に入ろうとしてきた。


「おいおいまてまて!わかった、わかったから土下座なんてするな、俺が何かしたみたいになるだろうが」


「でも、泊めてくれないんでしょ?」


「う……」


さすがに女子に土下座をさせるのは気が引ける。

ここまで願ってこられると俺もさすがに罪悪感がわいてくる。

俺ははぁ、とため息をつくと


「わかった、俺の部屋に来てもいい」


「え!?ほんとに!?」


「ただし条件がある」


「条件って?」


「まず、無許可での部屋の立ち入り禁止だ。俺だってプライベートまで邪魔されたくないからな。それと、このことは誰にも言わない、ばれたらいろいろ大変なことになるのはほぼ間違いないからな」


「うんうん、つまりは自分の印象さえ保てればいいってことだよね?」


「んまぁ……ありていに言えば、そういうことだな」


「わかった!任せておいて!」


何か重要な部分が伝わってないような気がするのは俺の気のせいだろうか。

まあ気のせいだとしても何かしてきたら追い出せばいいだろうと考えた。

まさかこいつと同居することになるとは思っていなかったが、迷惑さえかけなければいいかと腹をくくるのだった


~碧音View~

まさかこんなにうまくいくとは思ってもいなかった。

いざとなれば強引に家に押しかけるつもりでいた。

許可をくれるとは全く思っていなかったし、こんなやり方で申し訳ないと思う。

…こういうのもあれだが、もっと手段はあった。

何ならこのタイミングでなくてもよかった。

ならなぜこのタイミングなのか。

理由は簡単である。

この桜を前に私は、気分が悪くなるからだ。

体調が悪くなるわけではない。

単純に、気分の問題だ。

あの木は…いや、この現実は、最悪だ。

あの木を中心に枝分かれしたものに彼は巻き込まれてしまっている。

彼のことを気にかけるのは、ただの興味ではない。

罪悪感、それも言い表せないほどの、である。

彼は、私のことをどう思っているだろう。

変な人、うざい人、しつこい人…そんなことを思われているんだろうか。

彼にしてきたことを思えば、私は最低な人間に見えるのだろう。

だから、私はここにいる。

いつか真実を告げる日が来るのかもしれない。

それは数日後かもしれないし、数か月後かもしれない。

いつ来るかもわからない未来を前に、私は木に向かって、誰にも聞こえないようにつぶやいた。


「責任、取りなさいよ…」


と…


「何やってんだ碧音、ほらいくぞ」


彼は私を急かすかのように言葉をかける。

あぁ、この日常だ。

この日常こそ、私が今楽しんでいるものなのかもしれない。

秘密を持ち、楽しむべきではないはずなのに、勇気が出ないから気を紛らわせようとしている。

…もし彼がこの真実を知ったとき、彼は許してくれるのだろうか…


「……」


その時、私にだけ聞こえてくるように声が聞こえてきた。

私はその言葉にフッと微笑み、こう思った。

…悠長にしている時間は限られてきたな、と…

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