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第5話 桜?

景色を見に来たはずだった。

いつもの桜を見に来たはずだった。

いつも通り適当にたそがれ、帰る。

それだけの事を、楽しいと思い、今日もするのだと思っていた。

昨日は特別、イレギュラーが起こっただけだと納得させていた。

だからこそ…


「なんで、お前がいるんだよ」


碧音は、木の下に立っていた。

せっかくの花見が興ざめだ。

話すこともないと思っていたからこそ、動揺していた。


「お前がここで俺を待つ意味はなんなんだよ!」


辺りに俺の声が響く。

だが、俺にはもう、我慢が出来なかった。


「お前が俺に関わる意味がわからねぇ!何で俺の前にことごとく現れるんだ!俺の前に現れるなと言っただろう!?何でお前は、そこまでして俺に関わりたいんだよ!!」


言葉が荒くなる。

どうしようもなく荒っぽい言葉を吐くことしか出来なかった。


「…私はね」


口から言葉が発される。

俺は聞きたくなかった。

しかし、それを聞かなければ、俺はこいつを突き放せないのだと、そう思った。


「…君と同じ景色を見て、ゆっくり話したい。ただそれだけだよ。趣味が合う私と君なら、仲良くできると思ったから」


理由はやはり変わらない。

これ以上の理由は聞き出せない。

…やはりコイツは、邪魔なんだ。

ふと、そんな事を思ってしまう。


「啓介は、何をそんなに隠してるの?君が邪魔だと思う理由を、私は知らない。」


なにより、と言葉を続けて


「私と話す時の君は、いつも苦しそう。啓介がどんなことを考えてるか、何で苦しんでるのか、私は知りたい」


そう聞かれてしまうとお手上げだ。

ハッキリ言って言いたくない。

まだ、俺は認めてない。

だから気にしてこなかったのだ。

今まで…そしてこれから。

だから……


「お前がここにいることが、イレギュラーだった。それだけだ」


俺は、適当に濁すしかなかった。


「少なくとも俺は、お前と話すつもりはない。……一目見れたしな、今日は帰るわ」


「待って!!」


碧音がここ2日で初めて俺を強く引き止める。

流石の俺も止まってしまった。


「……明日からも、こうなの?」


ふと、悲しそうな声でそう聞かれる。

当然だ、そう言おうとした。

しかし、その目に涙を浮かべていて…


「……!?」


俺は戸惑いを隠せなかった。

碧音の姿が、アイツと重なって見えたのだ。

意味がわからない。

碧音とアイツは何も関連がない。

なのに何故……

考えても答えは出ない、だからこそ、俺は…


「あまり馴れ馴れしくするなよ」


許してしまった。

碧音という存在を、俺の領域に入れることを許してしまった。

アイツの存在に関連があるかわからなかったが、許さなければならない、そんなことを思ってしまった。

やれやれ、俺はアイツにだけは甘いんだな。

ふとそんな事を思いながら、その場をあとにするのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼が消えてから、私はその場に座り込んだ。

涙を浮かべる演技は自分でもなかなかのものだったと思う。

家の布団で寝たいなと思ってしまう。

いや、ここが私の家なのかもしれない。

でも……


「私は、この景色を1度も素敵と思ったことがないわね…」


そんなことを思う。

啓介にはああ言ってるが、その実この景色は嫌いだ。

この世で1番イレギュラーな存在。

啓介から必要とされ、その幻想で啓介を魅せている。

啓介に惚れているわけではない。

いや、違う形で出会っていたのならば、惚れていたのかもしれない。

……。

やはり、知るべきである。

ここ8年の彼の記憶を。

どこまでも時間がないなと思いながらも、私はゆっくり立ち上がる。

これを選んだのは私だ。

啓介が私に存在を与えてくれたように、私も彼に全ての選択を返そう。

これは私の…戦いだ。

ぐっと拳を握り私は木に手をかざす。

その木は私に呼応するように、しかし意志を示すように周りに風を吹かせる。

…明日から、本格的に頑張ろう。

私はそう、決意を固めるのであった…

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