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第3話 転校生

「ねえ~啓介!」


「......」


朝のホームルームが終わり、周りから殺気めいた視線を向けられる。

やめろよ...そんなに熱い視線を向けるなよ......

違うそうじゃない。

どうしてこうなってしまったのだ。

俺はいつも通り平凡で黙々と授業を受ける日常を受けるはずだったのに...

その理由をわかりながらも俺は頭を抱えるしかないのであった。


数分前ーー


「......は?」

素っ頓狂な声を上げる俺。

それもそうだ。

なにせ...教卓の前に立っているのは昨日出会った、少女、矢野碧音だったからだ。

...面倒なことになりそうだ、じっとしておこう。


「矢野碧音です!景色を見ることが好きで、絵を描いています!」


絵なんて描いていたのか、意外な発見である。


「そして...」


そこでなぜか俺を指さす。

嫌な予感しかしない。


「松野啓介と…一緒の時間を過ごしました!」


「......」


急に静まり返る教室、クスクス笑う教師、

言っていることに何も間違いはない。

しかし…


「んなわけないだろ、人違いってもんだ」


とりあえずこう返すしかないだろう。

認めてはならないのだ、ここで認めてしまうとクラスメイトから一夜を過ごしたと勘違いされてしまう。

しかもだ、この子何だかんだで容姿がいい。

身長は女子の平均よりやや下、茶色の髪が肩下まで伸びている。

更に言うなら胸は別に大きくない、だがくびれを意識しているのか体のラインはクラスの女子の中でも1、2を争う。

…あくまで俺のイメージだが。

うん、昨日は特に何も思わなかったが改めて見ると少し可愛い。

クラスメイトが矢野碧音に目が釘付けになるのもわかる。

しかし衝撃発言からクラスメイト全員が口まで空けて唖然としてしまった。


「でも昨日一緒に居たじゃないですか?」


どうしようも無い爆弾が投下されてしまった。

何と言い返そうか考えていると…


「…あ、交際してるとか一夜を過ごしたわけじゃありませんからね?」


クラスメイト全員が安堵し、俺はげっそりし、教師は腹を抱えて笑っているのであった。

いつまで笑ってるつもりだ……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時は現在に戻る。

殺気めいた視線を今でも向けられているのは矢野碧音がさっきから話しかけてくるからだ。

いきなり現れたクラスの中でもトップクラスに可愛い女子。

そんな子に話しかけられている姿を周りの男子が見れば殺気も湧くはずだ。


「啓介〜、さっきから話しかけてるんだから何か返してよ!」


さっきから何度も話しかけられているが無視を決め込む、……のは限界がありそうだ。

転校生だからクラスメイトから質問攻めにあっててもおかしくないのだが、俺に話しかけてる構図から質問攻めに会わないのだ。

…どうしようもない、返答しなければ碧音が可哀想なだけだろう。


「さっきからうるさいぞ。周りのクラスメイトはお前に興味があるんじゃないか?転校生だかなんだか知らないが、相手をしない俺じゃなく、周りの相手をしてきたらどうだ?」


これだけ辛辣な態度を取れば一旦引いてくれるだろう。こいつには悪いが馴れ馴れしくする意味もないのだ。


「えー、せっかく君と話す機会が増えたのに?」


「昨日のは偶然だろ、俺は話そうと思ってなかったからな」


その瞬間、周りの空気が変わったのを感じ取った。

俺、何かおかしなこと言ったか?

………。

……。

…。

昨日は偶然、話そうと思わない?

……。

完全に自白じゃないか!?


「みんな聞いてくれ、違」


「違わないよね!?昨日会ったじゃん!」


その発言に、周りの男子共が騒ぎ出す。

これが嫌だったんだよ…。


「チッ」


舌打ちをしたらまた周りが静かになっていく。

これ以上は俺がここにいる方が邪魔だろう。

授業は…1限目ぐらい保健室で適当な理由をつけて休めばいいか。

そう思い教室から出ていくことにした。


「あれ?どっかいくの?」


相手にするのも憂鬱だ、時間の無駄だろう。


「頭が痛いから、保健室にな…」


「後でまた話そうね!」


果たして話すだろうか……

いや、あそこに行くなら話すだろう。

そこでしっかり忠告しておかなければならないな…

そう思いながら、教室を出て保健室に向かうのだった…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんでほとんど話してくれなかったの!」


あの景色を見に行こうと校門を出ると矢野碧音が待ち構えていた。

なぜ話すと思ったのだろうか。


「一つ言っておく、俺はお前と関わり合うつもりはない。クラスのやつとも関わるつもりは無い。別にあの景色の場所で2〜3分話すくらいならいいが、俺は馴れ合いたい訳じゃない。学校では話しかけるな。今日のことは水に流すから他の奴と話してろ」


少し苛立ちを覚えたのは事実だ。

しかし俺も言葉不足ではあったし何より何も言わずに辛辣な態度をとるのは可哀想なものだろう。


「むっ、そう言われると無理やりにでも関わりたくなっちゃうな〜」


クッソ!なんで諦めねぇんだよ!

俺は心の中で怒りが湧く。

こいつはなんなんだ、別に同じ景色を見ただけだろう?

俺は自分がその景色を見れれば何でもいいが馴れ合うのは好きじゃない。

…だが、言う意味もないだろう。こいつには全く関係ないし、つまらない話になる。


「はぁ、聞き分けの悪いやつだな。」


俺はそこで一呼吸置いて…


「俺の空間に入ってくるな。近付くな。それ以上何か言われると、手が出る」


怒気と殺気を込めてそう言葉を発した。

偶然にも冷たい風が吹き抜け、より雰囲気を悪くしただろう。


「啓…介?」


怯えているのか、何が何だか分からないのか、曖昧な言葉を零す碧音。


「じゃあな、せいぜい楽しい学校生活を送れよ。」


俺はそう言葉を残してその場を去る。

気分が悪い、イライラすることに対してじゃない。

もっと別の大きな確信にいずれ近付かれるであろう恐怖が俺の心の中に駆け巡ったのだ。

流石に言葉をかけづらかったのだろうか。碧音はそれ以上追いかけてこなかった。

それでいい。

そうじゃなければ俺はここで怒鳴り散らしていただろう。

…今からあの木を見に行くのもいいが、碧音と間違いなく鉢合わせるだろう。

そう思い、俺は帰路につく事にした。

我ながら、少し馬鹿なことをしたな。

帰り道、ふとそんなことを思うのだった…

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