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第2話 水野家

俺は帰路に着いたあと、何事もなく家に到着した。

俺はとあるマンションの一角を借りて住んでいる。

一人暮らしを始めて8年という月日は家事に慣れ、時間を余らせるには十分な期間であった。

8年前、俺にこのマンションの一室を貸してくれた『水野家』には感謝をしている。

なんと言ってもマンションの一室を無料で貸してくれたのだ。

8年前の俺は喜んでその厚意に甘えていたが、普通に考えれば気の引ける展開である。

現に今の俺はアルバイトをしてでも払おうと思えば払えるのだ。

しかしそのアルバイトの金を自分のために使いなさいと言ってくれた水野家には感謝してもしきれない。

……ある一点を除けば、だが。


「ねぇ啓介!まだ夕食作れないの?」


「うるさい奴だな、もう何度目だその言葉」


そう、無料である一番の理由。

それこそ、今の声の主、『水野綾子(みずのあやこ)』によるものだった。


「だってお腹すいたんだから仕方なくない?」


「自分の家で食べてこい…」


呆れながら言葉を零す。

綾子は別に家事ができない訳ではない。

正直世話も要らないぐらいなのだ。

しかし毎日俺のところに来ては夕食を食べ、酷い時は泊まっていくのだ。

男女が同じ屋根の下で寝るのはどうかと思われるかもしれないが、それは俺も感じでいる。

なんなら綾子の母、『華澄(かすみ)』さんに抗議したことがある。

しかし……


「何かの間違いが起こっても綾子が悪いんだもの!それに若いんだから過ちの一つや二つ犯しちゃってもいいのよ!」


などととても冗談では済まされない内容の発言だった。

俺は綾子に微塵も恋愛感情を抱いたことがないし、綾子も同じである。

だからこそ、間違いが起こっては行けないのだ!

あれは恋人同士がすることで……

……。

いかん、俺も頭がおかしくなっていたようだ。

まぁ、だらけないように見張れという事だと思うが、正直何もしていない。

何をしろと言われた訳でもないし、俺だって1人で居たいのだ。

だが、感謝を無下にする訳にも行かないので家にあげることは許可しているのだった。


「そういえば啓介、あんた今日帰り早かったわね。いつもの寄り道しなかったの?」


ふとそんな事を聞いてきた。

綾子はあの桜の光景を見たことはない。

しかし幼い頃俺が熱弁したため、その景色に対して興味が尽きないという所は綾子も知っているのだ。

昔は何度も誘ったが、


「青い桜なんて生えてるわけないし、もしあっても不気味よ」


なんて言われてしまった。

…言葉にすると確かに、と思うものがある。

しかし、見てないのに不気味と決めつけるものは如何なものかと思ったりもする。

まぁ、今じゃ1人の方が落ち着けて有意義なので誘うこともないが…


「いつもの場所に行ったら人がいたんだよ」


「へえ?よかったじゃないぼっち卒業」


「誰がぼっちだ」


本当に失礼なやつである。


「それで?何もせず帰ってきたの?」


さて、どうしたものか…

正直少し話しただけなので、何もしていないで終わらせられる。

矢野碧音の事をわざわざ話す意味などないし、むしろ話した!などと言ってしまえば言及されかねないだろう。

だから…


「何もしてないよ、一人になれないならまあ今日は帰るかって思って帰ってきた」


「そう。でも人がいたなんて初めて聞いたけど?ここ…何年だっけ?」


「8年で初めてだよ。まあそいつもその景色を楽しんでるんだろうと思って黙っていたが」


「話しかければよかったのに…」


その言葉にスルーを決め込む。

この発言は間違いなく内容を聞かれるパターンである。

そしてそこから女性だと伝わってしまえば…

絶対運命だよ!女の子だよ!付き合っちゃいなよ〜、とか…ほらほら〜、その子可愛かった??とか…まぁ、ウザイことに変わりはない。

と、そんな事を考えているうちに夕食を作り終えた。

カルボナーラに野菜炒め、あとはご飯に味噌汁だ。

我ながら完成品を見て思う、普通だ、と。

手を合わせて食べている途中で綾子が口を開く。


「そういえば啓介、アンタのクラス転校生来るんでしょ?男子?女子?」


「…ん?」


転校生?はて、なんの事だろう。疑問に思って首を傾げていると…


「アンタまた先生の話聞いてなかったの?呆れるわぁ…」


「俺はお前がここに来るごとに毎回呆れてるよ」


「いいじゃない親公認だし」


「カップルみたいな発言やめろ、付き合ってる訳でもないんだからさ…」


「まあそうね。それで転校生の話に戻るけど、その子女の子らしいじゃない」


…女の子?その言葉に少し引っ掛かりを覚えた。


「啓介はどんな女の子がいい?」


「いや別にどうでもいいんだが」


「え!可愛い方がよくない?男子的に」


「中身腹黒だったら元も子もないだろ」


「…確かに」


「納得するのかよ」


あまりに冷静な判断をしすぎて相手を納得させてしまった…可愛いかどうかなんてものはどうでもいいが……

転校生。

なんだか引っ掛かりを覚える。

妙なことがよく起こるなぁと思うばかりである。

そこからは他愛もない雑談をして夕食を食べ終わった綾子は家に帰った。

真面目な綾子のことだから勉強でもしに行ったのだろう。


「さて…俺も勉強しとくか」


そう思って机に向かう。

しかし、矢野碧音の事が頭から離れず、満足に勉強することも出来ず、仕方なく寝ることにした。

……。

矢野碧音、か。

あまりに不思議なやつで、突然の出会いに混乱したが…あの桜の光景を見に行くのに、ファンタジーのような特別な方法なんてない。

行こうと思えば誰でも行ける。今日はそんな偶然が重なったんだと納得することにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

11月28日


いつもの朝、起きて朝食を食べ、身支度を済ませ登校。徒歩20分で着くためさほど遠い訳では無い。

しかし、今日の学校はいつもと少し雰囲気が違う。

まぁそれもそのはずだ、転校生が来るとなると浮かれた雰囲気にもなる。

俺は興味が無いため自分の教室に入り、自分の席に着く。

…確かに1つ席が増えている。

昨日までなかったその席が、俺の席の隣に置いてあった。

静かにしてくれるならなんでもいい。

授業を真面目に受ける訳でもないが話しかけられるというのは非常に憂鬱である。

適当に本を取りだし読んでいると、あっという間にチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。


「あー、まぁ昨日知らせた通りだ、転校生がいる」


男性陣がうおぉ!と声を上げる。

女子だということを知っているのだろう。

…実に単純なやつらである。


「入ってきていいぞ」


そう担任が言い、転校生が入ってくる。


「…は??」


俺は思わず、素っ頓狂な声をあげるのだった…

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