もしも家族みんなが食欲なかったら
私の家族はみんな少食だ。
正確には自分以外が少食なのだ。
父は食事をパン一個で済ますし、母はご飯をお茶碗6割くらいしか食べない。
そんな家族。
今日はおばあちゃんのお見舞い。
認知症で腰が弱く、毎日家で昼寝をする齢80のおばあちゃん。
今日も今日とて
がま口財布の中に
がま口財布の中に
がま口財布の中に
がま口財布の中に
がま口財布を入れて入れて入れて入れて入れて……
財布が何処にあるか分からなくなるのだ。
そんなおばあちゃんを車に乗せて、近所の食堂へ連れて行くのだ。
車の中、一人でベラベラ愚痴り続ける。腰が痛いのウカウカするだの。
とれたての魚を捌く、ちょっと良い食堂。
畳の席に正座をして、厚紙の冊子のメニューを見る。
粗煮定食、刺身定食、天ぷら定食……魚はニガテだな。
父:にぎり寿司、上、赤みそ汁付き
母:刺身定食
婆:刺身定食
自分:たまご丼、赤みそ汁付き+すり身
おばあちゃんはベラベラ喋る。さっきと同じ事喋りまくる。
まずはすり身が来る。小さな団子状のすりみ、キャベツの千切りを添えて、特製ドレッシングをかける。
しっかり旨味がついている。ドレッシングもピリリとして美味い。
たまご丼、まろやかで優しい味。
卵と玉ねぎとかまぼこ。辛くないけど美味しい。
とまあ一人で食べていたら問題発生!
父:「何か食うか?」
はい。かっぱ巻きをひとついただきます。
母:「まだ入る?」
はい。茶碗蒸しをひとついただきます。
婆:「ほら、もっと食べんね」
はい。お刺身たくさんいただきます。
……
……もぐもぐ
……
……もぐもぐ
……
……うっぷ
もう無理。
苦しい。
お腹いっぱい。
婆:「あら、もう終わりね? もっと食べんね」にこにこ
認知症こわい。無邪気にえげつない事言うからね。
母が説得してるけど、馬の耳に念仏。認知症こわい。
……
……ちびちび
……
……ちびちび
……
……うっぷ
やっぱり無理。
婆:「あら、もったいなかね」ばくばく
おばあちゃん!?
全部平らげてしまった。
今日も謎のおばあちゃんパワーを感じてしまったのでしとさ。