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地獄というのは、時として平穏な日常とすぐ隣り合わせにあるらしい。


僕の名はアレン。ジャーナリストをしている。

つい一昨日、めでたく22歳の誕生日を迎えたところなのだが、祝いの席を設けてくれた仕事場の上司であるセフィさんが、酒癖が悪いくせにかなり飲んでしまったのがいけなかった。

本当は僕が止めるべきだったのに、普段から厳しいけど面倒見もよくお世話になっている彼女に対して、まあ今日くらいはいいか…と看過してしまったのが不幸の始まりだ。


「君さあ!浮気とか横領とかせこいネタばっかりちまちま取ってないでさあ!もっとドォーンとさあ…!」


ジョッキを手にしたまま肩を組んでくるものだから、一張羅のシャツの肩にビールがちょっとこぼれてしまった。でも彼女がわくわくと楽しそうに話すものだから僕は少しずれた眼鏡を直して続きを聞いていた。


「ドォーンと…?」


うんむ、と大きく頷いて彼女は遠くを指差すように大きく腕を掲げた。


「君はでっかい才能があるのに眠らせて勿体ないってずっと言ってるのにぃ…君は世界を変えられるって!!」


ハハ…といつものように僕は笑って流した。僕が世界を変えられる?そんなわけない。臆病で、誰かの生活を覗き見るだけでも罪悪感で縮こまってしまうような僕が。

それならなぜ、ジャーナリストなんかになったのかって?

それは、話せば長くなるけど、簡単に言えばセフィさんのスカウトだった。僕が趣味で取った写真を彼女が偶然見かけたらしく、それに何かを感じたらしい彼女が僕に猛烈なアプローチをかけてきて(半ばストーカーだった)、根負けする形で僕は彼女の元で働くことになったのだ。実際のところ、今の仕事には環境的にも収入的にも満足している。だから、他の仕事に特に興味がなく就職に不安すら抱えていた僕には、むしろ有難すぎるほどの居場所だ。

しかし、セフィさんが次に放った言葉にはさすがに辟易した。


「君が本領を発揮するのは、シャダールとかそういう場所だと私は常々思ってるんだ!」


ビールを吹き出しそうになりながら、僕は咳き込んだ。シャダールだって?冗談じゃない!

『シャダール』というのは、世界で最も治安が悪く戦争の絶えない地域だ。そんなところに僕を送り込もうなんて、可愛い部下を殺す気か!

そもそも、そういった紛争地域に派遣されるのは、護身用の『魔法』を会得して自分の身を守ることができる一部の人間だけだ。

世界共通の国際法によると、『魔法』の修得を許されているのは軍人や警察、そして職業上など正当な理由のあるものが特別に講習を受けて最低限の護身術を身に付ける場合のみだ。いずれの場合も『魔法』の行使には免許が必要となる。

中には、生まれつき備わっている『魔力』が皆無の人も一割程度おり、彼らは講習を受けても『魔法』を会得することはできない。

そして幸か不幸か、僕はその一割に入ってしまっている。

僕は精一杯笑顔の仮面を顔面に貼り付けてセフィさんに向けた。


「才能を買ってくださるのは嬉しいんですが…僕にはとても…」


「…というわけでね。今月7日の便、取っといたから。さっそく行っといでよ!健闘を祈る!!」


ピシッ、と僕の笑顔の仮面にひびが入る音がした瞬間だった。



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