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80.アンとグレス公爵

 アンとメルシュの二人はパーティーホールまであと少しの所まで来ていた。

 あれがパーティーホールへの扉。このまま一気に…。先行するメルシュに続いて扉の先へ飛び込んだ。

 場内の賑やかだった空気は私達の登場に止まる。「何だ?」、「どうした?」と私達を面白そうに、あるいは鬱陶しそうに見る目の数々。異変に気付いた兵士達も慌ててこちらへと向かってくる。

 私は辺りを見渡し、ある人物を見付けるとその方へと一歩また一歩と歩み寄った。迫り来る兵士達はメルシュが押さえ、道を作る。ずんずんとその人の前まで来ると私は顔を隠すフードを取った。

 辺りからまた声が聞こえる。「あれは!」、「いや、まさか。」と驚く声が。

 遂に来た、この場に、この時に。皆が作ってくれた道を無駄にはしない。


「そ、そなたはアンジェリカであるか!」


 目の前の人は驚く様にそう言う。


「はい、お久し振りです、お父様。」


 私の言葉に無事であったことを喜ぶ声が上がる。それは伝播し、場内は王の誕生祭に併せて良いニュースが入ったと歓喜のムードに包まれた。


「今までどうしていたのだ。いつもそなたのことを心配に思っていたぞ。」


 その問いかけに真っ直ぐ答える。


「私は逃げておりました。グレス公爵が仕向ける殺し屋達から。」

「なんと!」


 歓喜のムードは一転、凍り付いた。誰もがまさかと思い固まる。


「何をおっしゃるのですか、アンジェリカ様。私はその様なことしませんとも。」


 一見して真面目そうな初老の男が前に出る。この人がグレス公爵。確かに目からは野心を感じる。きっと心の内ではニヤリと笑っているのだろう。


「嘘は言わないで下さい!私は全てを知っています!」


 それから私は私が体験したこと、情報屋から聞いたグレス公爵の企みを全て話した。


「…成る程、それで私が王女殿下と陛下を手にかけようとしたと。ですが、証拠はあるのですか?言葉だけでしたらどうとでもなります。私はそんなこと覚えはありませんので、証拠等無いと思いますが。」


 あくまでもしらを切る気だ。でも…。

 私はポケットから紙を取り出した。それはクロが危険を顧みずに潜入して手に入れたあの手紙。これで…。


「アン、危ない!」


 メルシュが叫ぶ。

 その声に反応し、後を振り返ると、メルシュが私を覆うように立っていた。「うっ。」と蹲るメルシュ。その左肩には矢が刺さっており、血が流れ出していた。


「メルシュ!」

「あたしは大丈夫さ。それよりもやることがあるだろ?」


 その言葉にしっかりと頷く。そしてグレス公爵の方へ向き直った。


「グレス公爵、これは私とお父様について書かれた手紙です。宛名はグレス公爵。つまりあなたが私達をどうしようとしていたか分かる証拠です。それにさっきの矢はあなたが忍ばせた者からのものでしょう。もう言い逃れはできませんよ!」


 私の言葉にグレス公爵を刺す視線が集まる。周りも私達の味方だ。


「やれやれ、私の負けのようですね。ここまでよくやったものです。もう少し話を聞かせてくれませんか。」


 グレス公爵そんなこと言いながらゆっくりと私の方へと歩み寄ってくる。その顔をニヤリと綻ばせながら。

 次の瞬間、グレス公爵は懐からナイフを取り出し、私に手を伸ばした。でもその動きは私にとって、とてもゆっくりに感じる。

 グレス公爵のナイフを持つ手から蹴りで弾き飛ばすと、今度は自分の腰から取り出したナイフをグレス公爵の首元に突きつけた。


「私をなめないで下さい。」


 膝から崩れ落ちるグレス公爵。私達の完全勝利だ。

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