8.食事と雑談
「アッハッハ、驚いたかい。」
そう、このメルシュ=アンディールは名のある殺し屋だ。その手口についてはまた話すとしよう。
「驚きました。メルシュさん凄く人の良いいお姉さんって雰囲気ですし、殺し屋なんて想像つかなかったですよ。」
「そうかい。まあ、あたしも訳ありなのさ。それでも仲良くしてくれたら嬉しいねえ。」
「それは勿論ですよ。よろしくお願いしますねメルシュさん。」
「あいよ。」と背中越しに返事をするメルシュに顔を緩めるアン。良かった二人共仲良くやってくれそうだ。アンも男の俺だけでは気が休まらんだろうからな。
料理が完成し、テーブルへ皿に盛られたピラフが置かれる。久し振りの温かい飯だ。パラパラのピラフは舌触りが良く旨い。
昼食を済ませるとアンは疲れからか、うとうとしだし、それを見てメルシュは寝室へと案内した。
「悪いなメルシュ。」
「このくらい構いやしないよ。」
メルシュはそう言い、コーヒーを入れてくれた。
「ジン、実はあんたを殺せって私の所にも来たんだよ。」
何!直ぐ様腰にあるナイフに手を伸ばす。
「待ちな。あたしゃそれを断ったんだ。どうもこうもしないよ。」
「すまない。」
椅子に座り直した。
「あたしを嗾けたのは他でもないあんたの師匠さ。」
「あのクソ野郎か!」
「ああ、きっと他の所にも声を掛けてるだろうさ。シスカにも襲われたんだろ?じゃあ十傑全員には言ってるんじゃないかねえ。」
十傑、それは裏世界での実力上位十名を表す言葉だ。シスカはその一人で、俺とメルシュ、これから仲間に入れようと考えているグンジやカナタも中に入っている。
残りの十傑全てが敵に回るとなるととてもじゃないが太刀打ちできない。やはりグンジ、カナタの二人はなんとしてでも味方に付けねば。
「でも本当に厄介なことになってるねえ。そう言えば、なんであのお姫様は命を狙われたんだい?」
「分からない。ただアンは生まれてきちゃいけなかったのかなと自分を卑下する様なことを言っていた。それがなんなのかも分からないが、今まで一緒に居たが殺されるような、そんな悪い奴には見えなかった。」
「へえ~、そうかい、そうかい。ジンがそう言うならあたしこれ以上言わないさ。」
「そうだ、そのジンって言うのをこれからやめて欲しい。今はクロって名乗ってるんだ。」
「クロ?ふうん、クロか、良いじゃないか。」
メルシュはそう言い笑った。何が可笑しいのだろう。
それから泊めてもらうからと家事の手伝いをした。といっても皿洗いくらいで、部屋は綺麗な状態なので掃除する必要もない。洗濯をしようかと尋ねたが、「あんたはバカかい!」と怒られてしまった。善意で言ったのだがな。
そうして何もやることが無くなってしまった。それではと俺も休むことにした。久し振りに肩の力を抜いて休むことができる。これもメルシュが居るお陰だな。
クンクン。良い匂いがして目が覚める。部屋には明かりが灯り、窓の外は既に暗い。思ったより寝てたな。それよりもこの匂い。
「あっ!起きたクロ?」
「なんだアンも料理を手伝ってるのか?」
「はい!晩御飯はカレーですよ。」
弾むような返事を返すアン。ヤン村で料理道具を揃えた時も思ったが王女が料理をするとはな。アンは俺の思ってる王女の姿とまるで違うらしい。
俺も手伝おうとしたとき、ドンドンと勢い良くドアを叩く音がした。
「メルシュ姉ちゃん、居る?」