71.スピードとパワー
カナタはかがみ、靴を脱ぎ、裸足になると、靴を右手に持った。そして彼女はにっと笑い、
「三、二…。」
とカウントダウンを始めた。何をする気だ?
「一、ゼロ。」
カウントダウンが終わると同時にカナタは手から靴を放し、姿を消した。そう、消えたのだ。さっきまで目の前に居た彼女の姿は忽然と消え、何か鈍い音が響いたかと思えば、彼女の履いていた靴が地面を陥没させていた。
ハッとなり、アズの方に目をやる。そこには仰け反るアズの姿と、その後方にカナタの姿があった。それを見て漸く事態を把握する。
カナタの奴、いつもこんな重いものを…。気になってカナタが脱ぎ捨てた靴を持ち上げてみた。両手で持ち上げても手が震える程の重さがあるそれは片足分。そんなものを両足に。あの尋常じゃ無いスピードでもまだ押さえ付けられていたと言うこと。枷の外れた彼女を捉えられる訳が無い。
仰け反った体を戻すアズ。口の中が切れたのか血が頬に伝っている。
「まさか一撃を入れられちゃうなんてね、どうやら侮りすぎていたみたいだ。」
口を拭うアズ。血が出ているもののダメージとしてはそれ程入っていないらしい。カナタはパワーと言うよりスピード特化の戦闘スタイル、無理も無いか。
「だけどね、俺はそんな軽い攻撃じゃ、落ちなぶはぁ!」
話の途中であったアズの体が宙を舞う。
「誰の攻撃が軽いって?」
声のする方にはカナタが居り、フンッといった様子で飛んでいくアズを見ていた。
俺はどうやら酷い思い違いをしていたらしい。あれ程重い靴を履いておいて、強化されるのがスピードだけな訳が無い。本当に恐ろしいのは、重りをものともせず、自由に動き回れる程に鍛え上げられた脚力、パワーだ。
飛ばされたアズは地に伏し、起き上がる様子は無い。カナタの圧倒的勝利だけが目の前にある。
「ジン、どうだった?私のとっておきはスゴイでしょ!」
「ああ、味方出よかったと思い返した所だよ。」
今の彼女の強さは客観的に見ても十傑内で一番と言っても良いかもしれない。そんな彼女が敵だと考えただけでゾッとする。
さて、向こうはどうだろうか?
◇◇◇
あたしとグンジはリズに向き合った。
あんな小柄な子供が武器を手に取るって本当に世も末だねえ。まあ、ただの子供じゃないのはよく知ってるけどさ。
「メルシュにグンジ、ねえ。アタイの相手としちゃ悪かないか。でも勝とうだなんて思わないでよ!」
リズがあたし達に鉄球を飛ばしてくる。それを横へ飛んで躱した。
向こうも敵意はむき出しだし、ここはお姉さんがお仕置きしないとだねえ。




