7.到着と協力者
「おはようクロ。眠そうだけど、私と一緒だったから寝苦しかったですか?」
不安そうな顔をするアンに「気のせいだ。」と返す。本当を言えば眠いのは眠いのが、言ってしまえばまた変に悩んでしまうだろう、知らないままでいい。
さて、ヤン村からオベールまで約二日はかかる。しっかりと食料を買い込まなければ。
簡単に身支度をすると道具屋へと赴いた。俺は干し肉だけでも別に良いのだが、アンは自分が料理するからと食材に、調理器具に物色を始める。ワガママを言うようになった分、心のゆとりができたのは良いことだが、行き過ぎないのを願うばかりだ。
結局昼近くまで時間がかかり、昼食まで済ませ、ヤン村を発った。さすがに遅くなりすぎたと反省する彼女の様子も面白い。
ヤン村からミルドの町を通らない道ということで真北ではなく、少し西寄りの道を選ぶ。そこはゴツゴツとした岩場であり、慣れない者には足に応える道のりだ。
アンも額を汗で濡らしながら辛抱強く歩いてはいるが、疲れは出るのだろう、時折休憩を取りながら歩みを進め、ヤン村を発ってちょうど二日後、俺達はオベールの町に到着した。
「ここがオベール。」
町並みを見てアンが声を漏らす。レンガ造りの建物が並ぶその町並みはこの町の特徴であり、初めて目にする者は皆一様に目を奪われる。
さて、早速あいつの所に向かおう。町外れにあるその家は、町を囲む壁の側にあり薄暗い。あまり目立たないからここに住んでいるのだろうな。
家のドアをノックする。
「メルシュ、居るか?」
「居るよ、入んなジン!」
声が返ってきたので、ドアを開け中に入ると机に向かい作業をしている妙齢の女が居た。メルシュだ。
「久しぶりだねジン。それに女連れかい?結婚の報告って訳じゃなさそうだね。どうしたんだい?」
メルシュに事情を説明する。
「なる程、厄介なことになってるじゃないか。それで私に助けをって言われてもね、正直あたし一人じゃ何して良いか分かんないよ。まあ、手伝わないって訳じゃ無いけどね。取り敢えず今日は家に泊まりな。」
「悪いな、迷惑かける。」
「はいよ。あんたもよろしくね。じゃあお昼ご飯作るから座ってな、疲れてんだろ?」
メルシュは本当に世話焼な性格だ。だからここに来たと言うのもあるが。アンもメルシュの様子を見てクスリと笑っている。
「何だか面倒見の良いお姉さんみたいな人ですね。」
「ああ。だが注意しろよ、メルシュは怒ると怖いんだ。」
「何話してんだいジン。」
「そうですね、分かりました。」
ソファに腰掛ける。
「それでジン、あんたは何か考えがあるのかい?今の状況を打開する方法ってのをさ。」
「いや、全然。取り敢えず協力者を募ろうと思ってるが。」
「そうかい。でもなかなか厄介ごとに協力してくれるやつも少ないだろう。あんたの知り合いならグンジとカナタって所かい?でも二人共ここから遠い所に住んでるからねえ、ちょいと大変だよ。」
そうだ、グンジはここからさらに北に一週間。カナタは西に五日の町に住んでいる。その間また追っ手に悩まされることを考えると気が重くなるな。
「そう言えばメルシュさんって何をされてる方なんですか?」
「あたしかい?あたしゃジンと同業者さ。」
「え?」