65.侵入と物色
屋根の上というのは待つ場所に向いていない。日は地面より良く照りつけ暑いし、風もまた良く吹き寒さも感じる。早く日が暮れないものか。
待ち続けること数時間、辺りはすっかりと暗くなった。黒装束に着替えた俺は完全に闇に溶けている。さあ、行こうか。
屋根伝いに目的の屋敷へと近付く。塀を乗り越え、庭へと降り立ち、近くの茂みに身を隠す。その数秒後、直ぐ近くを警備兵が通った。だが、俺には気付かず通り過ぎていく。
そう、この庭には警備兵が居る。その人数、四人。屋敷の東西南北に一人ずつ置き、それぞれ時計回りに巡回し、警備している。
屋敷へ入る道は十通りあるが、正面入口や明かりの付いた部屋は論外。となれば、二階の暗い一室、あそこだな。
タイミングを見計らい茂みより飛び出す。鍵付きのロープを屋根に投げると同時に壁へ飛ぶ。壁を蹴り、ロープを引く、体は直ぐに二階の高さまで辿り着いた。そのままベランダに飛び込み、身を隠す。そしてロープは屋根から外し手の中である。この間僅か五秒。勿論、誰も気付いた様子は無い。
よし、ここからだ。屋敷内へ足を踏み入れる。暗い。あえて選んだ訳だが、光の入らない部屋、目を慣らす。
目が室内を把握すると、そっと足を動かした。音を立てず、気配を感じさせず、まずはこの部屋を物色する。
部屋には机に箪笥、それからベッド。部屋の広さから見てもここは寝室だ。あまり時間をかけては部屋の主が来るだろう、仕事は手短に、だな。
机の上、何やら書類が置いてある。暗くて読み辛いが、何かの金額がずらずらと綴られていた。これは予算表だろうか。見てはみたものの知りたいことは書いてない。
机の引き出しを開ける。そこにはまた大量の書類がまとめてあった。一つ一つを手に取り、パラパラとめくる。その途中、探していたものが目にとまった。ロウダン=グレス、公爵の名前だ。それも一つや二つではない。手に取るほとんどのものにそのサインがある。間違いない、ここはグレス公爵の屋敷だ。行き当たりばったりな策だったが、上手くいったものだ。
さて、次は本題である。グレス公爵、奴の悪事の証拠。それを探さないと。
先ほどまでパラパラと見ていた書類を少し念入りに見直す。何か、何か書いてないか。報告書、手紙、予算表。これといった内容のものは無い。この部屋には無いか。
次の部屋へと移ろうとしたとき、何やら物音が聞こえた。コンコンと軽く床を叩く音、誰かが廊下を歩いている。
マズイ、早いとこ隠れないと!




