6.強敵と好機
シスカ=レンゲル。多数のナイフを自在に操り、裏の世界で十本の指に入ると言われる実力者で狂気の二つ名を持っている。過去に何度か仕事を共にしたことがあるが、そのやり方は残忍。蟻を踏み潰すように軽くターゲットを仕留めた後、玩具の様に的と言ってナイフを投げ遊ぶ始末。俺には理解ができない。
ただそんな奴にも付け入る隙がある。シスカは大雑把な性格だ。さっきもターゲットの俺に気付かれてしまう程の物音を出していた。力を持つが故に傲慢となっているのだろうな。
「おい、おい、逃げてばかりじゃ終わらないぜ。」
先程からシスカの攻撃を躱しまくっているのである。速さはこちらの方が上、それに奴の攻撃も少し大振りであり、躱すのは容易い。しかし、手数が多い為、なかなか反撃ができないのである。
俺の暗殺の手口は主に相手の寝込みを襲い、その喉を切り裂くものだ。オーソドックスだが、それが一番効果的だからである。だからといって実戦が苦手だと言う訳では無い。寧ろその逆だ。相手が腕の立つ者なら、気配だけで起きてしまうことがある。そんなときは対峙し、相手をしなければならない。そんな相手をも倒し、生きてきた俺にも二つ名がある。それは…。
「攻撃して来いよ。それじゃ二つ名が泣くぜ。」
シスカの攻撃を躱し続けているとナイフを投げなくなった。それは投げなくなったのでは無い、投げられなくなったのだ。後を考えずに投げ続けた結果だろう投げナイフが底をついたのである。まだ服に隠し持っているかもしれないと思うかと思うが俺には分かる。ジャラジャラと音を出していたその上着から何も聞こえなくなったのだから。
こうなれば後は両手に持つナイフのみ、格好の獲物である。その大振りな攻撃を躱すごとにこちらから斬り込み、ジワジワと傷を与えていく。傷が増え、血が飛ぶ度に焦りを見せるシスカ。もう敵では無い。
「クッソー、さすが〝死神〟ジンだね。ここいらが引き際だわ。」
そう、俺の二つ名は死神。眠っていても、抗っても等しく死を齎す存在とそう呼ばれる様になっていた。だから今日この場でこいつを見逃す訳が無い。
敗走モードのシスカを後ろから蹴飛ばす。派手に転んだ所、足の腱を削ぎ、逃げる力を奪う。
「待てってジン、お遊びじゃないか、許してくれって。」
焦るシスカに一歩、また一歩と近付いていく。これで終わりだ!
そう思った矢先、目の前に何か球体の様な物が飛んできた。警戒し後ろに飛び退くと、その球から煙りが発生し、辺りを包んだ。
「フフフ、まだ運が尽きていないようだ。またなジン!」
シスカのその声に、マズイという気持ちが押し寄せてきたが、何も見えない。煙が晴れた後には、もう奴の姿は無かった。
仲間がいたとはな。まあいい、暫くは何もできないだろう。
辺りにはまた静寂が戻った。