58.二段構えと小石
アンの元に寄ると、アンは目に涙を見せ俺に抱き付いてきた。
「良かった、クロが無事で本当に良かった…。」
「悪い、心配かけた。でも、今は置いておこう。」
アンの体をそっと離し、敵に向き直る。
「ジン=ブラック!この忌々しい奴め!お前達、陣形包囲六だ!」
あの参謀の声により、騎士達は動く。俺が割って入った箇所は埋まり、直ぐ様囲まれてしまった。騎士達は前後二列となり、前列は槍を前に構え、後列は剣を持ち隙間を埋める。前に飛び込めば槍により串刺しに、上に飛び上がっても剣で落とされるという二段構え、真面に行くのは愚策だ。
「クロ、どうする?」
背中合わせのメルシュがそう言う。どうする?限定解除を使っても制御しきれないスピードでは自ら槍に飛び込む様なもの。限定解除弐を使ってもこの人数相手は体力がもたない。限定解除参では威力が強すぎて二人を巻き込んでしまう。
ええい、駄目だ駄目だ!悪い方に考えてばかりでは打開策など見付かるものか!
「メルシュ、お前まだ体力はあるか?」
「ああ、まだ何もしちゃいないから全快さ。」
「俺が三つ数えて合図する。そしたら思い切り地面を殴れ。それが戦闘開始の合図だ。後は死ぬ気で戦ってくれ。」
「クロ、そこは死ぬ気じゃなくて生きるために戦ってくれだろ?」
「そうだな。やるぞ!」
三、二、一。メルシュが地面を殴る。その衝撃は土を巻き上げ、辺りへ降り注ぐ。それに身を隠しながら正面を騎士へと近付いた。
騎士は降ってくる土に気をとられていたが、直ぐに俺に気付き、槍を突き出してくる。鋭い突き、それは俺の顔を真横を通り過ぎて行く。さすが騎士、躱すのも紙一重だ。でも躱せる。当たらなければ次は俺のターンだ。
まずは一人。ナイフを目の前の騎士の首目掛けて突き出す。
いや、マズイ!ナイフが首を捉えようかという手前で後に飛び退いた。そしてさっきまで俺が居た場所には剣が振り下ろされていた。
危なかった。冷や汗が頬を伝う。なめていた訳では無いが、甘く見過ぎていたか。
メルシュも攻め倦ね、俺の後に戻ってきた。
「マズイねこれは。あの二段構えは本当厄介だよ。」
同じことは恐らく通じない。
「メルシュ、アンを守っててくれないか?」
「あんた何する気だい?」
「心配するな、ただぶっ倒れるだけさ。」
メルシュから離れ一歩前に出る。限定解…。
俺が力を使おうとしたとき、小石が飛んできた。それは一つでは無く、十、二十、いやそんなちっぽけな数じゃない。これは一体…。
「アンジェリカ様を助けろ!」
「王国騎士団なんてあっちいけ!」
「ううっ、怖いけど、えいっ!」
「みんな、やっちまえ!」
どういうことだ?騎士達の後にはこの町の人達が何十、いや百を超えているだろうか兎に角大勢が立ち並び、手に持つ小石を騎士達へ投げ付けている。
「アン!アン?」
後を振り返り、アンを見ると口元を両手で覆い、頬を濡らしていた。
「私…この町で…一人じゃながったんだ。」
アンの頭にポンと手を置き、直ぐ様騎士達に向かっていった。このチャンス、無駄にはしない!




