56.思い出と報告
ど、どうしよう、この人私のこと知って…。
「ありがとねえ。行こうかアン。」
メルシュが素早く私と店主の間に割って入る。そして私を隠した。少し早歩きでその場を離れて行く。
「ありがとうメルシュ。」
「いいさ、このくらい。それより振り向いちゃ駄目だよ。あの店主まだこっちを気にしてる様だからねえ。」
「うん、分かった。」
後ろを振り向かない。分かってはいるけどどこかぎこちなくなる。その様子もきっとフードが隠してくれると思いながら歩いた。
「メルシュ、お母さんの所に行きたいんだけど大丈夫かな?」
「ああ。クロの奴もまだ来ないだろうし、良いだろうさ。」
「ありがとう、メルシュ。」
お母さんと過ごしたあの家。今でも良く覚えている。この大通りを少し逸れた所にある娼館街の近く。共同の井戸があって、近所の子供達がよく集まっていた。私の家はそこから見えて、私はいつも家から子供達が遊んでいるのを眺めるだけだった。そんな私の家は台所と私とお母さんが寝る部屋が一つで、雨が降ると雨漏りはするし、風が吹くと壁が揺れるとてもボロボロな家。だけど、とても暖かい家だった。
「ただいま、お母さん。」
家の直ぐ裏手はとても日当たりが良く、晴れた日はポカポカして気持ちが良い場所だ。お母さんに時間ができた時には二人でそこに座ってお母さんの話を聞くのが楽しみだった。そんな場所にお母さんのお墓はある。
「お母さん、私ね、友達ができたんだよ。ここに居るメルシュとあとクロって男の子。メルシュは頼りになるお姉さんって感じで、いつも私のこと気に掛けてくれる優しい人なんだ。ちょっと抜けてる所もあって、でもそれが可愛らしいの。クロはとっても強くて、私達をいつも守ってくれるんだ。でも、いつもボロボロになって帰ってくるから心配で、ほっとけないそんな男の子なの。三人での旅は大変だけととても楽しくてもっといろんな所に行ってみたいって思うくらい。だからね、お母さん、私は大丈夫。安心してゆっくり休んでね。」
墓石に向けて笑って見せた。
「さてと、メルシュも…、メルシュ?」
隣に居るメルシュの顔が険しくなっていた。
「アン、囲まれてる。それも結構な数だ。」
敵!フードを深く被り直すふりをして、辺りを見回す。一、二、三…確かにたくさん居る。どうしよう、私がここに来たいと言ったばかりに。
少しして敵の方から姿を現した。姿からして王国兵士だった。
「アンジェリカ様、やっと見付けましたよ。さあ、私共と城へ帰りましょう。」
「あなたは?」
「私は王国騎士団参謀、ディレイです。そこの下賤な者に拐かされたのですね。おい、お前達、捕らえろ!」
周りに控えていた兵士達も一斉に姿を現し、私達を囲う。
メルシュと背中合わせになり、臨戦態勢をとる。止めて、こんな場所で、お母さんとの思い出の場所で、戦うだなんて。お願いだから荒らさないで。そう思いながらナイフを手に取った。
「うわぁ!」
後ろから突然、兵士達の叫び声が聞こえた。
何!?後ろを振り返ると答えは直ぐに分かった。
「待たせたな。」
「クロ!」




