55.店と理由
まずはいつもの様に町の外周を調べる。何処か町の中に入れる所はないかな?一通り見てみたが入れそうな場所は無い。それなら変装だ。私とメルシュは髪型を簡単にいじると顔を覆う様にフードを被った。
これからこの町の門を潜る。何度か経験をしたことだけど、まだ慣れない。今も心臓がバクバクと言っている。もし声を掛けられて止められたら…。本当に怖くて堪らない。
だけど、そんな心配を余所に私達は簡単に通ることができた。周りを見ても私達を何ら気にする様子も無いし、それどころか周りも私達の様に顔をフードで覆っている人ばかりだった。
そう言えば、私が居た頃もそうだったな。何でかは分からないけど、都合が良いや。
このミルドという町はアースノー王国内一番の娼館街がある。それを目当てに国内の貴族達はこぞってここへ通っている。そう、アースノー国王がそうであったように。つまり、身分を隠し、この町を訪れるが故に皆顔を隠した服装をしているのだ。今はそれが二人を助ける様に作用している。
よしっ、情報屋の所に行こう。バルバレルの情報屋の人から聞いた話はこうだった。大通りにあるビーンズという名前の薬屋がある。そこで店主にこう話す。
「最近右眼と左腕が疼くんだが、抑える様な薬は無いか?」
と。合言葉らしいけど意味が分からない。けど、合言葉って大体そういうものだよね。
ビーンズの女店主は私の言ったその合言葉を聞いて口を手で覆い、笑いを堪えた。何で?何かおかしかった?合言葉違ったかな?
一頻り笑った女店主は
「ごめん、ごめん。私も自分で考えた合言葉なんだけど、未だにおかしくってさ。コホン、あんた達は情報屋の客だろ、奥に場所を変えようか。」
お店の奥はバルバレルにあった情報屋のお店と似た暗い部屋だった。きっと人の目に触れない様に、声が漏れない様にしてあるんだろうな。
「それで何が知りたい?」
「私を殺そうと考えてる黒幕を教えて下さい。」
「アンジェリカ姫を殺そうとしてる黒幕か、良いよ。」
名乗らなくても私が姫だってやっぱり分かるんだ。
「あなたを殺そうとしてるのはグレス公爵だよ。」
グレス公爵!レヴェリさんが言ってた人か。それにしても何で?
「アンジェリカ姫はアースノー王と妾の子でしょ?国内でそのことを知っているのはアースノー城内でも一部の人間だけ、一応箝口令が敷かれているから。もし外に漏れてしまえば王の権威が揺らぐ程ヤバイことだしね。そこに目を付けたのがグレス公爵。公爵はあなたを殺すことを王妃が仕向けた様に画策してるの。王が自分以外の女との間にできた子供が許せなくて殺したって感じにね。そうすればあなたが妾の子だってことも広まって、王と王妃の力を一気に削げる。そして国民が今の国王を信じられなくなった時に立ち上がって自分が変わって王になるって訳。だからその為にあなたを利用しようとしてるの。」
そうだったんだ…。グレス公爵…会ったことも無い人に命を狙われるって、理由を聞いたけど何でって言いたくなる。
「メルシュ、どうしたらいいんだろう?ちょっと分からなくなってきたよ。」
「アン…。」
少しの沈黙の後、メルシュがパンッと手を叩いた。
「アン、気持ちを落ち着ける為にも少しだけ町を回らないかい?この町の雰囲気なら多少は自由が利きそうだしさ。」
「そうだね。」と頷いて返す。
店主にお礼を伝えて外に出る。さてと、何処へ行こう。そう言えば、この通りに焼き鳥の屋台があったな。昔はお金が無くて買えなかったけど、今なら。メルシュに伝えてそこに行くことになった。
いい匂い。そう、この美味しそうな匂いだ。まだあった。私は早速三本の焼き鳥を注文した。やった、あの時眺めるしかできなかった焼き鳥が食べられる。そう思うと口の中に唾液が溢れてきた。
「はいよ、おまちどう…。」
焼き鳥屋の店主からできあがった焼き鳥を受け取る際、動きが止まった。
「お嬢ちゃん、もしかして!」




