53.時間稼ぎと通路
メルシュの家を背に見える範囲全てに敵が居る。何処へ逃げるか、いや、逃げられるのか…。
「お前は誰だ?」
誰かなどどうでも良いが、考える時間を稼ぐ為、問う。
「私はアースノー王国騎士団参謀、ディレイだ。見ての通りお前は袋の鼠、抵抗は無駄だと知り、大人しく捕まると良い。」
「戦うつもりは無い。だがその前に一つ聞きたい、アンとメルシュはどうした?」
両手を上げながら更に尋ねる。
「ふむ、アンジェリカ様とそこに住む娘か。どうしたと言われても何も話すことは無いな。お前の方がよっぽど知っているのではないか?」
アン達は無事か。それが分かっただけでも十分だ。
さて、行くか。俺の背後にはメルシュの家がある。家に入れば更に逃げ場は無いと思うかもしれないが、彼女の家には地下に倉庫がある。彼女は暗殺者という裏社会の住人。もしもの時の為の隠し通路がある筈だ。
ゆっくりと両手を下ろし、息を付く。そして足に力を入れドアに向け飛び込んだ。ドアを突き破り中へと転がり込む。急いで立ち上がり、地下室へと降りた。なけなしのドアロックを掛け、周囲を見渡した。
クソッ、暗くて何も見えやしない。何処だ、何処にある。壁を手当たり次第に触が、返ってくるのは固くヒンヤリとしたレンガの感触、奥があるようには思えない。
すぐ近くまで来ているのだろう、部屋の外が騒がしくなってきた。もう時間が無い。薄らと冷や汗が出てくる。
壁に無いなら床だ!ドンドンと床を踏み、通路を探す。しかし返ってくるのは固い感触だけ。
頼む、あってくれ、頼む。諦め掛けたその時、カンと軽い感触が返ってきた。
ここだ!力の限り、床を踏み抜く。そしてそのまま下へと落ちた。そこには人一人が十分に通れる奥まで続く通路が。助かったよメルシュ。暗い道、肩を壁にぶつけながら走った。
走り続けて十数分、漸く小さな明かりが見えた。外か?次第に近くなるその明かりの先は岩で塞がれており、ここが出口だと分かる。
よいしょ。重いが、力を入れると岩はすんなりと動いた。
外へ出ると草木が茂っており、直ぐ近くには町を囲う壁が見えた。町の外まで通じていた様だな。
アンとメルシュがこの町に居ないとなると、次に思い浮かぶのはミルド。先を急がないと。




