50.弾丸と代償
全身が焼ける様に痛い。いや、痛いなんてものじゃない、気を抜くと直ぐに動けなくなる。薬によって自己治癒能力は向上している筈だが、体を蝕む速度がそれを上回っているのだ。一秒も無駄にできない。
ナイフをゼロに向け、力強く足を踏み出した。
ゼロはそれを躱そうと動く。こちらはかなりの速度であるのにも関わらず、反応をするのだ。さすがはゼロと言ったところか、だが!
弾丸と化した俺の体は、ゼロの左半身に当たった。
音速を超えた物体の衝突、それがどれ程のものか分かるだろうか。物体がぶつかる時の衝撃は速度の二乗に比例すると言われている。例を挙げよう、時速四十キロでぶつかった時の衝撃は、体重の三十倍の力が加わる、それだけで人体にかなり重篤な影響を及ぼすと分かるだろう。今回はその例の約千倍だ。
ゼロの体は大凡人が出す様なものではない音を発し、その左半身は陥没した。だが、たったそれだけだ。普通なら肉片となっていてもおかしくない攻撃だったが、たったそれだけで済んだのである。
「痛えなおい。」
ゼロは焦ること無くそう言うのである。
嘘だろ、今のでまだ立ってられるのかよ。
「これじゃ戦えねえな。おい、今日の所は退いてやる。だが、次は殺す、覚えとけ。」
そう言うとゼロは何処かへ消えていった。
限定解除参の状態を解く。うっ!俺はその場に倒れ込んだ。薬飲んでも駄目だったか…。俺はそのまま気を失った。
◇◇◇
倒れたまま意識の無いクロに二つ近寄る影があった。
「あーあ、こんな所で寝ちゃって、何してんだこいつは?」
一人の女が覗き込む様にクロを見る。
「師匠見てたでしょ、さっきのとんでもない力の反動でこうなってるんだよ。」
「そっか、なら!」
一人の女は屈むとクロの体を背中に抱えた。
「師匠、そいつどうするの?」
「ん?そりゃジンとまた戦いたいからね。連れて帰って回復を待とうと思ってさ。」
「師匠らしい考えだ。」
キキキと笑う二人。そして町に向けて歩き出した。
◇◇◇
ハァハァ。息を切らしながら走る。逃げろと言われてメルシュと二人遠くまで来た。
「ねえメルシュ、さっきの男の人は何?一体誰だったの?」
走りながらメルシュに尋ねる。
「あれはクロの師匠。クソ野郎だよ。」
あれがクロの師匠…。前に話は聞いたけどクロの憎む相手。
「大丈夫だよね、メルシュ。クロは戻ってくるよね。」
「ああ、クロは簡単にくたばるような奴じゃ無いよ。あたし達は信じて先を急ぐんだ。」
メルシュのその言葉に強く頷く。どうか無事でいて、クロ…。




