5.安堵と新手
夜が明け、オベールに向け歩き出す。アンの顔は俯いたままだ。昨日のクリストという奴が彼女にとってどんな存在だったのかは知らないが、相当心に傷を残したらしい。本当にいらないことをしてくれたな。
アンに何か声を掛けようとも思ったが、俺が何か言える立場では無い。俺も金欲しさに彼女を殺そうとしたのだから。
「ねえクロ、貴方も私を置いて逃げた方が良いわ。」
「いきなり何を言い出すんだ!」
「だって私は…私は…。」
目に涙を浮かべるアン。言おうとすることは何となく読めるが、
「前にも言ったろ、俺も俺を雇った人間に狙われてる可能性があるって。もし助かる手段があるとしたら俺達二人で生き残ってなきゃいけないと。」
そう言って俺は彼女の頭に手を置き、「大丈夫だ。」と伝えた。
その後、涙をほろりほろりと流す彼女の頭を俺はただ優しく撫で続けた。溜まっていたものが吹き出したのだろう。今はしっかり泣けばいい。
「もう、大丈夫です。」
そう言い、アンは顔を拭う。少し涙で滲んだ笑顔を見る彼女はさっきとは全く違って見えた。
それからの足取りは軽く、日暮れにはヤンという村に着いた。
クリストを仕留めたからかこの村にはまだ情報は出回っていないらしい。これはひさしぶりに暖かい布団で寝られそうだ。
村に一つしか無い宿には客が集中したのか空き部屋が一つしかなかった。仕方なく俺とアンは相部屋となった訳だが、何をする訳でも無い。
「クロ、一緒に寝てもいいですか?」
枕を持ったアンは顔を赤くしてそう言う。俺は断る理由は無いと布団に招き入れた。
「暖かいですね。」
背中に伝わる暖かく柔らかな感触は心地良いものだった。こう寄り添って寝るなんていつ振りだろう、いや、無かったかもしれない。いっそいつまでもこの時が続けばいいのに。そう思いながら眠りについた。
深夜、辺りが静まりかえる頃、ふと物音がした。その音に気が付き目が覚めたのだが、何かおかしい。その音は廊下ではなく外の屋根から伝わるものだった。
この感じからして同業者だ。俺に依頼を出したあのおっさんが刺客を寄越したということか。
アンを寝かしたまま俺はナイフを手に取り窓の外へとそっと顔を出した。居る、それも知った顔だ。
「シスカ、久し振りだな。」
その声に驚いたのか相手は動きを止めた。
「ジン!やっと見つけたよ!良かったまだ生きてて。」
嬉しそうに話すその高い声は本当に俺が生きていたことを喜ぶものに聞こえる。しかし、奴のそれは獲物が自分の手で狩れるという喜びのものだ。
窓から外へ飛び出しシスカと向き合う。茶髪の細身で背の高い女。普通に見ればかなりの美人だが、その性格はいかれてる。
「じゃあ、殺ろうか!」
そう言った次の瞬間、奴は両手の指全てに挟んだナイフを投げ飛ばしてきた。それを躱すも既に間合いを詰められ次のナイフが飛んでくる。それも後ろへ飛んで躱した。
「いいねえジン!やっぱりあんたとは一回殺りあってみたかったんだよね。」
「俺はイヤだったよ。」
「さあ、続きを始めようか。」