4.味方と敵
俺がナイフを抜くと兵士も剣を抜き、構えた。この兵士は単独行動か、それに若い。なんとかなりそうだ。
「貴様、何故アンジェリカ様を誘拐した!アンジェリカ様は、アンジェリカ様は!」
「 何故?俺はアイツを助けたんだ、そんなことを言われる筋合いは無い。」
「嘘を言うな!」
話をそこまでに兵士は斬り掛かってきた。それを受けず、右へ左へと躱していく。悪くは無いが、遅いな。
さて、そろそろ反撃を。
「クリスト?クリストなの?」
後ろから覗き込むように兵士を見るアン。知り合いか?
「やっぱりクリストね。私は大丈夫だから、どうか剣を納めて!」
その声が届いたのかクリストと呼ばれた兵士は手を止めた。
「アンジェリカ様、こやつは誘拐犯では無いのですか?」
「そうよ、クロは命を狙われている私を保護してくれたの。」
「そうなんですか…。」
やれやれ、なんとか話ができそうだな。
それからクリストに事情を説明した。勿論面倒くさくならない様に。
「何と!そんなことになっているとは。アンジェリカ様、私もお供させて下さい。」
「そんな、クリストまで危険な目に遭ってしまうわ。」
「いえ、アンジェリカ様の為なら。」
このクリストという青年兵士、アンを慕っている様だな。だが、
「アン、本当にこの男を信用して良いのか?」
「クロ、クリストは大丈夫です。私は信じます。」
「…分かった。お前がそれでいいなら、もうこれ以上は言わない。」
アン自身もかなり信頼している。それなら味方が増えたと考えて良いか。今は町中を自由に歩き回れないし、案外重宝するかもな。
「クロと言ったか、私はクリストだ、よろしく頼む。」
「ああ、よろしくな。」
三人になったことだが、取り敢えずやることは変わらない。オベールを目指すだけだ。
クリストの乗っていた馬にアンとクリストが乗り、俺は一人だけ歩き。足取りを合わせてもらっているが、一人損した気分だ。
トポルを発ったのが日が暮れ始めていたからか、暫く歩くと完全に辺りが暗くなる。進むのも程々にして手頃な岩場で今日は休むことにした。
夕食は町で買った干し肉のみ。ひもじいが、食べ物があるだけましだ。
アンは昼間と同じ様に食事の後直ぐに寝てしまった。やはり疲れが溜まっているのだろう。俺はクリストと相談し、先に寝ることになった。見張りが一人増えたのも楽でいいもんだ。さて寝るか。
目を閉じてからは直ぐに眠りについた。俺もそれなりに疲れていた様だな。
ん?何か物音が。目を開けるとクリストが剣を振りかぶっていた。
ヤバイ!直ぐ様俺は横へと飛んだ。するとさっきまで俺が居た場所に剣が振り下ろされていた。
「チッ、起きたか。」
「おい、お前何すんだ!そういうことか、お前もそっち側の人間ってことか。」
「そうさ、お前を殺した後、アンジェリカ様を殺し連れ帰るつもりだったのさ。まあまだ失敗って訳じゃ無いがな。」
クソッタレ、本当に休む暇がねえな。
ナイフを抜き対峙する。昼間の動きからして大したことは無い。直ぐに仕留める。
クリストの剣は遅く俺を捉えるには至らない。躱し、隙ができたところを攻める、攻める、攻める。鎧の隙間からナイフを差し込み腕、足の腱を削いでいく。
剣も真面に持てず、だらりとした両腕。肩で息をするクリスト。決着だ。
「くっ!こうなれば!」
クリストは後ろを振り返り、走り出す。
何をする気だ?アンか!奴め、寝ているアンを!
アン目がけて走るクリストを後ろからナイフで刺した。もうこれ以上何もできないよう心臓を狙って。
クリストはそのまま血飛沫を上げてアンへと倒れ込んだ。
「ん、ううん、クリスト?これは血?うそ、クリスト!それにクロ!これはどういうこと!」
「こいつは俺とお前を殺そうとしたんだ。」
「そんな…クリストまでそうだったの…。」
クリストを適当に投げ、アンの血を拭いた。彼女はかなりショックだったようで呆然としている。
こいつはかなり厄介かもしれないな。彼女が信頼していたクリストが刺客であった。ということは城には味方が居ない可能性も出てきた。そうなれば、国全体を相手取らないといけない。こいつはもう国を捨てあるという選択も考えねえといけないな。