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37.過去とこれから

 アンは王女だが、アースノーのお城で生まれた訳ではない。彼女はミルドの町で生まれた。それは何故か?彼女が現王妃の子では無いからだ。

 彼女の母親はミルドに住む娼婦。アースノー王は時折ミルドへ通っては彼女の母親に会っていたらしい。そして、アンを身籠もらせた。

 アースノー王はそのことを隠すことにした。王が王妃以外に子をなしたとなるとその権威は揺らぐからだ。

 そうして、アンはミルドで生まれ育った。だが、その暮らしは良いものでは無かった。シングルマザーの家庭である為、彼女の母親が仕事をしている間、アンは一人である。幼い時に家の中一人というのは寂しいものだ。

 家の近所へ遊びに出ても、娼婦の子というだけで良い目は向けられず、また寂しさに拍車がかかったらしい。

 そんな中、たった一つの楽しみは母親との時間である。優しく明るい母親の存在は大きく、貧しい生活でありながら、毎日笑えたのだとか。

 だが、不幸は突然降りかかるものである。彼女の母親が病気により倒れたのだ。

 医者を呼ぼうにもお金が無い。助けを借りようにも、人脈が無い。ただ母親の側に付いていることしかできないのだ。

 そして、症状は悪化し、彼女の母親は息を引き取った。置いていかないでと悲しみに打ちひしがれたらしい。一頻り泣いた後、今度は絶望を感じた。これからどうすれば良いのか分からないのだ。

 取り敢えず母親の働き口を訪ねた。仕事を下さいと。しかし、小さい彼女には何も仕事はもらえなかった。

 他にもいろいろ当たったが、結局仕事は得られないまま。母親の残したお金も底をつき、食べるものも買えない。

 お腹が空いた。ただ井戸の水を汲んでは飲み、お腹を満たす。しかし、それだけでは体に力が入らない。どんどん体は弱っていった。

 そんなある日、彼女の家に訪問者が現れたのである。アースノー王国からの使者だ。アースノー王は彼女の母親が亡くなったことを知り、彼女を引き取ることを決めたらしい。

 そうして彼女はアースノー城へと移り住むことになった。住む場所は格段に良くなり、飢えにも困らない。ただ一つの悩みは妃から良い目で見られないということだ。

 王が自分以外の女と子をなし、隠していたのだから仕方も無い。彼女は大人しくしようと決めた。

 それでもことあるごとに嫌がらせをされる。しかし、何も言えないのだ。自分の立場というものが分かっているから。

 生きることが辛い、逃げ出したいと思う暮らしが続く中、俺に会い、今であるという。


「…という訳なんだ。」


 小さく笑うアン。それを見てメルシュはアンに抱き付いた。


「全く、無理し過ぎだよこの子は。」

「ありがとう、メルシュ。」


 アンの話を聞いて今まで疑問に思っていたことが腑に落ちた。そして、黒幕の目星がついた。王妃だ。まだ確定では無いが、かなり怪しい。


「クロ?」


 俺はアンの頭に手を置いた。


「全てが片付いて、もしお城に居たくなかったらその時は言ってくれ。」

「それって!」


 少し恥ずかしくなって後ろを向く。それをメルシュが茶化したが振り払った。

 居たくない所に居なくたって良い。俺達はそのくらい自由に生きられる筈なんだから。

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