33.囮とピンチ
自警団の声かけにより料理屋達の了解が得られた。
説得に時間がかかり、辺りは既に暗くなり始めているが、夜の方が遭遇確率が上がると作戦を決行する。
俺は少しふっくらとしたサントンという男の護衛についた。この男狙われていると分かっているからかかなりソワソワとしている。それでは目立ち、狙ってくれと言っているようなものだ。それにこの男、今回の作戦を聞いてもの凄く嫌がっていたと聞く。もしかしたら狙われる理由に心当たりがあるのかもしれないな。
暗い路地を歩くサントンを建物の屋根伝いに監視する。これならばサントンを見失わない。それにおかしな奴も…。
サントンの後ろ数メートルを追うような動きを見せる男が見えた。来たようだな。
「おい、お前。何をするつもりだ?」
屋根から降り、不審な男の前に立つ。ギョッとした目を見せる細身の男は自身の腰に手を伸ばした。剣か。俺の問いに答えぬまま、息を荒くする男。間違いないこいつが犯人だ。
剣を抜くとこちらに飛びついてくる男。その攻撃を後ろに下がり回避するが、確実に命を取りに来ていた。躊躇の無い攻撃、説得はできそうに無いな。
さて、こちらもやられる訳にはいかない。ナイフを抜き構える。すると男はこちらに攻撃させぬよう剣を振り回した。このくらいと思ったものの体が思うように動かない。クソッ、前に切られたのがまだ…。
兎に角やられないようにと必死に耐える。少しの間、時間さえ稼げばきっと…。
「うおおぉ!」
その声の後、目の前に居た男は直ぐ近くの壁に吹き飛んだ。
グンジが現れ、体当たりをしたのだ。
「おいおい、手伝うと言った本人がこれじゃ困るぞ。」
「悪いな、グンジ。」
「おっと、礼はまだ早い。こいつ意外とタフみたいだ。」
ふらふらとだが男は立ち上がり、こちらを向く。まだ戦う意志があるようだ。
「やれやれ、取り調べを受けてもらう為に殺しはせんが、少々痛い思いをしてもらうぞ。」
グンジは剣を抜く。そして、男に向かいゆっくりと歩みを始める。それを見た男はやられまいとグンジに飛びかかった。次の瞬間その場には倒れた男の姿と剣をしまうグンジの姿が残った。
何が起こったか。端的に言うと、グンジが男を剣の腹で八回叩いた。但し、この間僅か一秒である。
グンジが十傑になったのはその剣の腕にある。その域まさに達人。剣を振る速さ、力強さにおいて、裏世界で右に出るもの無し。天をも切り裂く剣の腕と、天斬と皆呼ぶ。あのライザーとどちらが上か見てみたいものである。
さて、皆に声をかけて帰ろう。そして温かいものでも食べて冷えた体を温めないとな。