32.事件と作戦会議
「グンジさん大変だ!また例の殺人鬼が出たんだ!」
「分かった、直ぐに行く。悪いなジン、少し出てくる。」
その言葉に頷いて返す。それにしても殺人鬼か、厄介と言っていたのはそのことだな。
待っている間、サクラに少し話を聞いた。先程話に出た殺人鬼、その名を舌切り。殺害された被害者全員その舌が切り取られていることからそう呼ばれているらしい。何とも猟奇的な奴だ。
さて、グンジだが、何故町の人に声をかけられ現場へと向かったか、それはグンジがこの町の自警団をしているからだ。
彼は自警団をし、町の人を守っている。なら何故、裏の世界で名が広まっているのか。それはグンジの正義にある。権力者は法に触れることをしても裁かれない、そういうことが度々ある。それをグンジは許せないのだ。彼は法で裁かれないなら、俺が裁いてやると力を振るってきた。そして、十傑に名を連ねるまでになったのだ。
「ただいま。」
帰ってきたみたいだな。汗を拭うその苦い顔から、殺人鬼は見付からなかったと分かる。
「その殺人鬼について何か他に分かっていることはないのか?」
「そうだな、被害者が全員料理屋してるってことくらいだな。」
料理屋?じゃあ不味い飯を出された腹いせにその舌を切って回ってるとでも言うのか?
「じゃあこの町の料理屋全てを警護したらどうなんだ?」
「バカ言うな、自警団は俺を含めたった五人。無事な料理屋はまだ七人居る。二人足りない。」
二人か、俺とメルシュが手伝えば数は合うが…。
「グンジ、この件俺とメルシュが手伝うからさ、俺が今のことで黒幕と対峙するとき手を貸してくれないか?」
「交換条件か…。良いだろう、俺も実の所はお前のことも何とかしてやりたいと思ってたんだ。」
「ありがとう、交渉成立だな。」
グンジと握手を交わす。
「全く、あたしに了解ぐらい取って欲しかったねえ。別に良いけどさ。」
「悪いな、メルシュ。」
話は決まったと早速段取りを始める。グンジは他の自警団に声をかけに走り、残った俺は指名手配の男だとバレぬよう変装をすることとなった。
変装と言っても、帽子を深く被り、マフラーを口元まで巻くといった簡易的なもので、済ませる。あまり凝ったものでは動けないからだ。アンとメルシュは何故か残念がっていたが知ったことではない。
少ししてグンジが戻り、作戦会議を開く。今回の事件、被害者は全て一人の時に襲われた。それと人通りの少ない場所で被害に遭っている。それらを考えると誘き出すにはその状況を作るのが良いが、今から守る人達は誰も襲われたいとは思っていない。まずは説得が必要だ。
それから俺達が全員連携できる位置取りでなければいけない。殺人鬼相手に一対一では対処しきれないこともあり得るからだ。俺達は全員決まったルートを歩き、殺人鬼が出たら合図を出す。それを対抗処置として挙げた。
さあ、やることは決まった。絶対に捕らえてやる。