30.仕事と心配
次の日はやって来るが、まだ気分は晴れない。昨日あれだけのことがあったんだ、幼心には辛すぎる。
だが、ゼロは待ってくれない。俺が起きたと見ると稽古だと外へ摘まみ出す。嫌だと反抗してみるが、無理にでもさせようと俺が死なないギリギリのことをしてくる。本当にクソッタレだ。
仕事の回数も増えてくる。俺の決意とは反対に殺しの仕事しか来ない。生きるためには相手を殺すしかないとその手を血で染めていった。
誰も殺したくない。普通に暮らしたい。その願いは届かず日々はただ過ぎていく。
ゼロの元に来て五年経った時だろうか、突然独り立ちしろと告げられる。やっと解放されるとそう思っていた。だが、そんなに甘いものでは無かった。
仕事を探しても十歳の俺に真面な仕事は貰えない。仕事に就いたとしても食うにも困る程の金しか貰えない。どうしたら…。
そんな時頭を過ったのが、殺し屋の仕事だ。誰も殺したくない。でも、生きて行くにはそれに手を伸ばすしかない。結局はゼロの思惑通りなのだろう。
俺は殺し屋の仕事に戻った。生きるために…。
痛っ!背中に痛みを感じ目が覚める。長いこと寝ていたのか体が怠い。
ここは…部屋の中?確か俺は雪の中にぶっ倒れた筈…。ん、腹に何か重みが?
視線を向けるとアンが俺の腹に顔を埋めていた。看病してくれてたのか。
部屋のドアが開く。そこから現れたのはメルシュだった。
「おや、目が覚めたかい。どうだい具合は?」
「なんとか生きてるらしい。助かったよ。」
「礼ならアンに言ってやりな。ずっとあんたに付いてたんだ。」
「そうか…。」
心配かけたみたいだな。アンの頭をそっと撫でる。
「ん、ううん、クロ!」
目を覚ましたアンは俺に抱き付いてきた。
「悪い、起こしちまったか。」
「良かった。本当に良かった。」
泣き出すアンの背中を優しくさすった。
「それよりここは何処なんだ?」
「ああ、ここは…。」
メルシュが言いかけたその時、ドアが開き、男が一人顔を出した。何でもここの主らしく、山に小屋を建てて狩猟で生計を立てているらしい。何はともあれ助かったと、礼を伝える。
ここは俺が倒れた場所の近くにあったらしい。本当に運が良かったんだな。
それと俺はあれから丸一日寝ていたらしい。背中はまだ痛いが動けそうだ。もう少し回復したら出発しよう。
ただこれからもっと警戒しないといけない。なんせライザーの様な王国騎士団副団長クラスの奴も動いてるんだ。この前みたいなことになりかねない。
そう言えばあのオッサンはどうなったんだろう。別に知らなくて良いか。
翌日、もう十分休めたと小屋を出発した。ここからバルバレルまであと少し。グンジが仲間になってくれることだけをただただ願う。