3.遭遇と方針
足音のする方へと慎重に足を進める。近づく度に分かることがある。甲冑の様な金属音は無く、足音も軽い。子供か?どうやら追っ手という訳では無さそうだな。
暫くすると姿が見えてくる。齢十程の男の子の様だ。煤けた色の服を着ていることからこの地下水道で暮らしているのだろうか。
「誰だお前?初めて見るな。」
「お前こそ誰だ。」
「俺か?俺はマオ。ここで暮らしてんだ。」
「そうか、俺はクロ。ここにはちょっとした用でな。」
マオは「ふーん。」といった具合にあまり興味を示していない。
「ここで暮らしてるってのは一人でか?」
「そうさ、俺は金が無いんでね、仕方無く住んでんのさ。まあ慣れれば悪かないぞ。」
その歳でここに一人暮らし…。あまり立ち入ったことは聞かない方が良いな。
「マオ、この地下水道の出口で北に抜ける道を知らないか?」
「そのくらいならお安い御用さ、連れてってやるよ。ただちょいと駄賃をくれないか?」
「分かった。じゃあ頼むよ。」
「はいよ!」
話が決まった所でアンを起こしに戻る。決めた半刻までもう少しあるが、その前にも寝たから良いだろう。そう思い、肩を揺するがなかなか起きない。眠りが深いのだろうな。とそのまま寝かす訳にはいかない。俺は彼女の耳元でそっとある言葉を囁いた。するとアンはびっくりした様に飛び起き、俺とマオはそれを見て大笑いした。何を言ったかはアンだけ知っていれば良いだろう。
「クロ、その子は?」
「こいつはマオ。この地下水道の案内人って所だ。」
「よろしくな姉ちゃん。」
「はい、よろしくお願いしますね。」
マオの案内で地下水道を移動する。この水道は縦に横に広く網目状に広がっているようで、素人の俺達では出口に辿り着くのにかなりかかったことであろう。実際町に入る時も少し迷ったしな。
「ここさ。」
マオの指し示す方向に明かりが見える。目的の出口だ。俺は彼に駄賃を支払い、彼とはそこで別れた。
「クロこれから何処へ行くんですか?」
「ここから北に進んだ先にあるオベールという町の外れに協力してくれそうな奴が居るんだ。そこに行くつもりだ。」
「オベール…。他の場所は無いんですか?」
ん?オベールだと都合が悪いのか?それともオベールに行く途中にあるヤンという小さな村かミルドという町のどちらかに不都合があるのか。
アンの言ったことは気になるが他の伝はもっと遠い。行くしか無いだろう。
「悪いなアン、他の所より今はこのまま北へ行く方がいいんだ。お前も絶対にダメと言う訳でも無いだろ?」
「それは…でも…。」
煮え切らないな。
「じゃあ何処がダメが教えてくれ。そうすればそこは避けて通るよ。」
「それなら、ミルドを避けてオベールまで行きましょう。それなら大丈夫です。」
ミルドがダメか。まあ通らなくても問題ないな。
「分かった、そうするよ。」
時刻は日が大分傾いた頃、トポルを出発した。追っ手はどう動くか分からんが、昼間の感じだと一人だったな。思ったより探しに出ていないのかもしれない。だとすれば、こちらはゆっくり準備ができそうだ。
体力も回復したからか朝より順調に足は動いている。このまま行けば…。
そのとき背後から何か音が聞こえた。振り返ると馬に乗る兵士が一人近付いてきていた。あれは!
逃げるにも馬の方が足は速い。話を聞かれたときに対処するしか無いな。
「おい、お前達この辺りで王女らしき人を…、ん?アンジェリカ様!ということは貴様が!」
バレたか!クソ、やっぱり服を変えただけじゃダメか。仕方無い、ここは。