26.洞窟とお仕置き
翌日、エト村を発とうとしたとき、ネルから話があった。やっぱりこのエト村に残りたいと。ここエト村での王国兵士のイメージが悪さをした奴らだけのものであって欲しくないからとネルは何か償いをしたいらしい。
別にネルが悪いことをした訳じゃないと伝えたが、首を横に振られた。意思は固いらしい。
最後に無理はしない様にと伝え、俺達はネルと別れた。後できっと力になるとの言葉も貰って。
さて、エト村からバルバレルまではまた遠い。距離もそうだが、降り積もる雪が厄介である。エト村を発ってから半日進んだだけで足首まで雪が増えた。防寒着はしっかりと用意はしたが、凍えてしまわないか不安だ。
休むにしても野晒しでは危ないと、暗くなる前に屋根のある場所を探した。しかし、探すときに限ってなかなか見付からないものである。気が付いた時にはもう完全に日が暮れていた。
まずいな。このままじゃ…。
「皆!あれ見て、洞窟があるよ!」
アンがそう言う。視線を向けると確かに洞窟があった。
「よく見つけたよアン、大手柄さ。」
本当良く見付けてくれた。野晒しで寝たら確実に凍えてたからな。
洞窟に近付くと何か違和感に気付いた。これは何かが燃える臭い、誰か居るな。
今更他の洞窟を探すのは難しいと、中にどんな奴が居るのか確かめることにした。
一歩一歩足音を立てないように慎重に進む。洞窟の中は小さく曲がっており、奥の明るい方へは上手いこと姿を隠しながら移動ができた。壁に身を預け、そっと明かりの方を覗き込んだ。
ん!あいつは!俺はメルシュに手で合図し、指で三秒を刻んだ。今だ!
「何だ?何だ?」
突然のことに驚いたそいつは後ろに倒れ込んだ。
「フィスト、あんたこんなとこで何してんだい!」
そうフィストである。あの日俺達を襲った後、こんな所まで来ていた様だ。
「何って、おじさん外は寒いから洞窟で暖まってただけだよ?」
まあ、その言葉に嘘は無いだろう。
「この前は酷い目に遭ったからな今日は懲らしめてやるよ。」
「待って、おじさん謝るから。おじさん暴力は嫌いだよ。ねっ、ねっ。おい、待てって。止めて、もう、あっあー!」
十数分後彼の顔は無残にも腫れ上がっていた。一体誰がやったのやら。もう抵抗のできないフィストを持ち物を全て奪った上、ロープで全身を縛る。そして、持ち物は金と食料以外は全て燃やした。これで安心だ。
十傑では無いが、こいつも名のある悪党。やり過ぎ位が丁度良いのだ。
何はともあれ寝床が確保できた。中に居たのがフィストで良かった。王国兵士なんかだと戦いになってただろうな。
何故俺はそんなこと思ってしまったんだろう。考えていることは大体起こりうるものである。フィストを懲らしめて一段落したと思っていたら洞窟の入口より、カシャカシャと鎧の動く音が響いてきたのだ。