21.雇用と着替え
翌朝、ベッドから起き上がる。イテテ。まだ体のあちこちが軋むように痛い。暫くは無理をしないよう気を付けよう。
部屋を出て、客間に向かうと既に皆居り、俺が一番遅かったらしい。
「おはようクロ。体の方は大丈夫?」
「まあな。でもこの通り腹が減っていけない。カナタ悪いが飯を食わせてくれないか?」
俺の腹から鳴り響くその音を聞き、回りは笑う。「待ってて。」とキッチンへ向かうカナタに、本当簡単なもので良いからできるだけ早くと心の中でそっと頼んだ。
「お待たせ。」と持ってこられたのは三十分後。やはり思うだけでは駄目らしい。だがかなりの量を作ってくれたらしく、食べ応えがある。
「クロ、オイラここで働かせてもらうことになったんだ。」
食事中にコツメがそう言う。
「そうよ。コツメくんはうちの使用人になってもらうの。住み込みで三食付き、お給料もちゃんと払うわ。良心的でしょ。」
カナタとコツメは笑う。彼女になら安心して任せられると礼を伝える。
「それと、今まずいことになってるの。」
カナタが切り出した不穏な話題、その内容とは俺とアンの手配書がここキングストに出回り始めたとのことだった。
やはりずっと逃げ切れる訳では無い。昨日の夕方頃にアースノーからの兵士がやって来たのだ。
それでも早くに情報を仕入れられたのは良かった。町で不意に囲まれるという事態を避けられたのだから。
ここでずっと匿ってもらう訳にはいかないし、早いとこ町を出た方が良さそうだ。
メルシュに出発前の買い出しをお願いし、俺とアン、カナタは町を出る算段をした。このキングストの出口は東西南北に一つずつ門があり、それぞれに衛兵が配置されている。手配書が回っている以上、町を出るときも顔を確認されそうだ。それなら変装をするのが良いという話になり、何故か俺が女装をすることに決まった。いや、決まったというより、決められたというべきだろう。まだ万全で無い俺をカナタが押さえ込んだのだから。そして身包みを剥がされ、着替えさせられる。
「かわいいよジン、ぷぷぷ。」
「本当よく似合うよハハハ。」
似合うという割に笑い続けるのはやめて欲しい。
鏡の前に立つ。その容姿は女性に見えなくも無いという微妙な所で、不安だ。
アンの方はというと髪型を変えたくらいで男装まではしない。華奢すぎて難しいとのことだが少し理不尽に感じる。
少ししてメルシュが帰ってきた。どうなったかは言うまでも無い。