18.襲撃と追跡
俺とメルシュは即座に部屋を飛び出し、隣の部屋へ向かった。しかしそれよりも早く、上の階より彼女が走り部屋へと飛び込んだ。次の瞬間には「ぐえ!」という声が聞こえ、部屋に入ると彼女の手にぐったりとしている犯人と思われる男がいた。
「カナタ!」
そう、彼女とはカナタのことだ。その速さ光の如く、瞬く間に敵を屠るその様に畏怖を込めて彼女のことを皆、瞬光と呼ぶ。
「お前!私の家に石を投げ込むとは良い度胸だなあ、ええ!」
声を荒げるカナタ。
そう、彼女も怒らせてはいけない人物の一人なのだ。彼女は怒ると性格が豹変する。正に鬼そのものだ。口が裂けても本人の前では言えないが、これを見たものは必ずそう思う。
まあこれも彼女の原動力なのかもしれないが、できればお目にかかりたくない一面である。
「カナタもうそいつ聞いてないぞ。」
「ちっ、だらしないな。」
「いつもこんな感じなのか?」
「ううん、この町の大体の敵は私が倒してきたから、普段はこんなことは無いんだけど…。」
ただの嫌がらせとは考えられない。一体何が狙いなんだ?
事態が落ち着いたと思ったその時、上の階よりドタドタと急ぎ降りてくる音が聞こえた。そして、この部屋に入ってきたのはここのメイドである。
「お嬢様!旦那様が!」
メイドの話によるとカナタが騒ぎを聞いて降りてきた時に上の部屋に居た町長が誘拐されたのだという。こんな白昼堂々とやってくれたものだ。
急いで探しに行こうとアン達のいる部屋に戻るとその部屋には誰もいなかった。アン達は一体何所に?
部屋をよく見てみると紙切れが一枚落ちていた。そこには「王女と町長は誘拐した。返して欲しくば三番街の大倉庫に来い。」と言う文章と見覚えのあるサインがあった。
「カナタ、これを見ろ。」
「…これは!あんのクソオヤジ!」
「おい、今は抑えろ。取り敢えずその倉庫に案内してくれ。」
カナタの案内で目的の場所へ向かう。そこは町の中心から大きく外れた所にあるひっそりとした倉庫であった。成る程あのオッサンらしいジメジメとした場所だ。
「おらあフィスト来てやったぞ!パパは無事なんだろうなあ!」
カナタが勢い良く倉庫の扉を開ける。薄明るい照明の中に町長とアンそれとコツメの三人が縄で縛られ、人相の悪い男三人がそれぞれの首元にナイフを突き付けていた。
「おう、カナタそれにジンとメルシュも、久し振りだなあ。」
「おい、オッサン。こっちは久し振りって気分じゃないんだが。」
「まあそう言うな。見ての通りお前さんらの大事な人は人質に取らせて貰ってる。どうする?助けたいよなあ。」
「良いからさっさと返しやがれ!」
カナタもう収まりそうにも無い。
「ああ返してやるぜ。但し、カナタ、お前がジンを殺してくれたらな。」
「何!」
カナタが足に力を入れ、飛び出そうとしたとき、囚われた三人の首元にあるナイフが動いた。
「おっと、変な気は起こすなよ。やることやってくれたらちゃあんと返してあげるから。」
その言葉にカナタが俺の方に向き直る。
「ごめんねジン。私はパパを助けたい。」
その声は震えていたが意思は確かな様だ。
「分かった。俺もアンを助けたい。やるかカナタ。」