10.戦闘と救出
扉の前に立つその男は見た所細い。しかし筋肉質でない訳では無い。恐らくパワーというよりはスピードを生かした戦いをする者だろう。
そうなればメルシュには少し分が悪いか。メルシュはパワーに特化しているがスピードは並だ。力ある攻撃も当たらなければ意味が無い。ここは俺が行くか。
「メルシュここは。」
「ああ、あんたの方が相性良さそうだねえ。頼んだよ。」
ナイフを抜き前へ出る。
「ボウズが相手か。できればそっちの姉ちゃんとやりたかったんだが、仕方ねえか。」
次の瞬間目の前に居た男が消えた。正確には消えるくらいに速く左右へステップを踏み移動しているだけだが。確かに速いが目で追えない程じゃない。俺はもっと速い奴を知っている。そいつはこんなもんじゃない。これならメルシュでも大丈夫だったかもな。
男はステップを踏みながら両手に短剣を持った。双剣使いか。そして男は俺の左側面に回り込むと斬り掛かってきた。
右利きだな。男の攻撃を躱しながら男の右手を掴む。そして勢いを付け、男の動きと反対に回り込むと男の右腕を使えなくした。
「う、腕があ。のクソガキ!」
腕の骨を折っただけで終わりでは無い。回り込んだ男の背後から両足の腱を削いだ。これでもう男は立てやしない。決着だ。
男は悶えたままその場に突っ伏した。
「あんたのやり方はえげつないねえ。」
「そうか?相手を仕留めるには手足を押さえるのが効率的だと思うけどな。」
思い返すと確かにえげつないかもしれない。だが、早くことを済ますには良いだろうから許して欲しい。
敵を倒した所で目的の会長室だ。部屋の扉を勢い良く開ける。
「何だ!?」
扉の先に立っていたでっぷりと太った男が驚く。そしてその男の前には手足を椅子に縛られた女性が居た。
「カリーナ!」
カリーナとはトマの母親の名だろう、メルシュがそう叫んだ。その声に反応しカリーナさんも「メルシュ、メルシュなの?」と返した。良かった、声を出せる程度には無事らしい。
メルシュは怒りを露わにし太った男、オールドの元へ向かっていく。
「何なんだおまえ達は!おい!誰かおらんのか!だれぶ!」
メルシュの拳がオールドの左頬にめり込む。そして勢いそのまま部屋の壁に激突した。
「いいかい!あたしの友達に二度と手を出すんじゃないよ!分かったかい!」
「メルシュダメだ、多分そいつ気を失ってる。」
「ちっ!仕方ないねえ。」
そう言ってメルシュは書き置きを部屋にある机の上に残した。これで懲りるかどうか。まあ、懲りていなけりゃこいつの未来は無いけどな。カリーナさんを連れその場を後にした。
「メルシュ姉ちゃん、それと兄ちゃんもありがとう!」
「メルシュ本当に助かったよ。ありがとね。」
「別に良いよこのくらい。それよりもまた襲われたらあたしに言うんだよ。またあのオヤジをとっちめてやるんだから。」
「ハハハ、本当頼もしいよ。」
話も程々にカリーナとトマと別れた。
さて、アンを倉庫から出してやらないといけないな。少し急ぎ足でメルシュの家まで戻った。
「おや、あたし明かりを消し忘れたかねえ?」
何!メルシュの家から明かりが零れている。確かにメルシュは家を出るとき明かりを消した。アンじゃない誰かがいる。