エピローグ
ここはバートンの屋敷の私室。
タイジュはここで、セシルと対話していた。
『ついに国が出来たわね。セシリア王国。タイジュが王になるなんて、簡単だったでしょ?タイジュが分かってないだけで、セシリアに住む人たちは、貴方のことをずっと王だと思ってたのよ』
(ああ。オレは、メンドーなことはツクヨに任せて、気付かないフリをしてただけだった。本当は分かってたのにな。この世界は似たようなことを繰り返してばかりだ。転生をはじめて300年、同じような事を何度も見てきた)
『そうね。世界は本当に変わらないわね。良い意味でも、悪い意味でも…」
(今回のことも、日本のファンタジー小説によくある話だよ。ありふれて話題にすらならない展開。こんなことで騙すヤツ、騙されるヤツが、この世界にはまだいっぱいいるんだな)
『でも、それが人だわ。何度注意しても同じことを繰り返す。日本だって同じよ。オレオレ詐欺、今は振り込め詐欺って言うのかしら?それって、何度もニュースになって、警察も注意喚起してるけど、一向になくならないわよね。騙す人、騙される人、はいつの世にもいる。結局、人は同じことを繰り返す存在なのよ』
(今日のセシルは厳しいな。でも、その通りだ。この世界より科学が発達してた日本でさえ、まだそのレベル。でもオレはそれを変えたいんだ。騙されて戦争になるのは、一番虚しいことだよ…)
『そんな世界を変えるのは、新しい技術かもしれないわよ。このセシリアの人々は、パートナーっていう新しい技術で、うまく暮らしているわ』
(そうだな。発明が世界を変える。パートナーって技術を取り入れてから、セシリアは劇的に変化した。それでもまだ不十分だ。やっぱり常に真実を知ることができたら、騙したり騙されたりなんて、起こらないよな。特に修正のきかない映像は有効…)
『あっ、まさか新しい機能を追加するつもりね』
(映像は言葉より有効だって分かったからな。パートナーに映像録画機能を追加しようと思う。それがあれば誰にも騙されないし、騙すこともできない。普通に生きるためには必要な機能だよ)
『普通に生きるって、まだそう思ってるの?』
(いや、オレには無理だってやっと分かったよ。普通に生きてても、絶対目立つ存在っているんだよな)
『呪われた存在である貴方は、絶対に目立つわ。呪われた人には特別な能力がある。貴方は《怠惰》の呪いを受けた。でも開発っていう特別な能力を持ってる。そんな貴方が普通になんて生きられるわけがないわ』
(目立たないように生きるのが無理なら、逆に思い切り目立つことにしたよ)
『だから王になるって言い出したの?』
(そう。王になって世界を変えて、王のオレが普通になる国。そんな国をつくるんだよ)
『世界中の人々が自分らしく生きられて、自分の能力を発揮することができる。そんな世界なら、貴方は目立たなくなるかもね』
(オレは、そんな世界が『普通』になるといいなと思う。そんな世界で普通に生きたいんだ。王のオレが一番普通に生きられる世界。良いと思わないか?)
『でもそれを実現しようとするなら大変よ。《怠惰》な貴方にできるかしら?』
(今までメンドクセーって言って、サボってたオレが本気になったんだぞ。出来るに決まってるさ。オレの本気を見せてやるよ!)
『ふふっ。それは楽しみね』
自問自答のような対話を終えた頃に、エルがやってきた。
「マスター、やはりデヴァルは普通ではありませんでした」
デヴァルが化け物に変貌したのを目の当たりにしたタイジュは、エルにデヴァルの調査をさせていた。
「デヴァルは元々、下級貴族の息子でした。その後、中級貴族へ養子にいき、若くしてその家の当主となりました。その頃から、デヴァルは欲しいものを必ず手に入れてきました。地位、名誉、女。デヴァルは、望んだことを全て叶えてきた。そして、周りが異常だと思うほどの早さで上級貴族になった」
「これまで出会ってきた化け物の周りにも、そういう人物がいたな…。異常なほどの才能がある人物。今回のデヴァルのことで思ったんだが、彼らもオレと同じなんじゃないか?」
「マスター、どういう意味です?」
「つまり、デヴァルも呪いの影響を受けた人物だったんじゃないかと思って。オレ、今回のことで気付いたんだ。目立たないように生きていても、必ず何かに巻き込まれる。アルファもバートンもデヴァルも、そうだった。だから、呪われた人は皆、同じなんじゃないかって」
「その可能性はあります。では、大きな戦争や騒ぎの中心には呪われた者がいる、ということですね?」
「そうだ。呪われた人物がオレ以外に何人いるか分からないが、早く見つけてなんとかしないとこの世界から戦争は無くならないと思うんだ」
「そうですね。デヴァルのような《強欲》は、戦争を助長します」
「デヴァルが《強欲》?───はっ、そうか。オレが《怠惰》なように、他の呪われた人物も何か特徴があるのかもな。だが、どうやって呪われた人物かどうかを特定したらいいんだ?」
「マスター、セシリア王国に連れて行けばいいのでは?パートナーを具現化するには、セシリアの大樹の加護を受ける必要があります。しかし、マスターは加護を受けることができない。これは、呪いのせいだと思うのです」
「呪われているから、加護が受けられない。つまり、パートナーを具現化できない人物は、呪われている…。なるほどな…。それなら、特定できるな」
「マスターが世界を変えると言うなら、協力します。しかし、呪われた人物を見つけることが、一番重要だと思います。彼らのいるところで何かが起こるのですから」
「そうだな。まずは、そこから始めようか。呪われた人物を探して保護する。彼らには特異な力がある。出来ることなら、オレに協力してくれるといいんだが…」
こうしてタイジュは、普通に生きるために、普通じゃない生き方を選んだ。
王という普通じゃない道を選んだタイジュは、この後、すごい早さで世界を変えていくことになる。




