24話 決意
獣人種が北へ、騎士団が南へと戻っていくのを確認したタイジュは、ホッとしていた。
(ツクヨもエルも、上手くやってくれたようだな。ただエルの方は心配だ。やり過ぎていなければいいが…)
タイジュの後ろでは、ギルバートが変な顔をしている。
「本当に戦争を止めさせるなんて…。オメー、どんな魔法を使ったんだよ!」
「それは秘密。それより、お前までここに来る必要は無かったんだぞ?もっと、ミコトと休んでて良かったのに」
「なっ、何言ってんだよ。オメーが急に出掛けるっていうから、ついてきてやったんじゃねぇーか。それに、ミコトと俺はそういう関係じゃねぇーよ。いや、嫌いってことじゃなくて。ただミコトはまだ子供だし。まだ早いって言うか…」
ギルバートが照れ笑いをしている。
ギルバートとミコトは出会って数日だ。それなのに、お互い好ましく思っている。ヒト種と獣人種、種族が違う者同士が一緒になることは難しいが、そんな世界になるといいなとタイジュは思っていた。
(そうか…、そういうことか。なるといいなと思ってるだけなら、何も変わらない。誰かが変えないと変わらないんだ)
「俺のことはいいんだよ!───それより、タイジュ。オメー、王になるって言ったよな?どんな王になるんだ?」
その質問に、タイジュは今の素直な気持ちを答える。
「オレが目指す王は、『普通の王様』だ!」
「普通の王様?どういうことだ?」
「良くもなく、悪くもないのが『普通』だ。最高を目指せばキリがないし、最低を少し良くしただけなら意味がない」
「よくわからねぇーな。ちゃんと具体的に説明しろよ」
タイジュは、自分が目指すものを語る。
「この世界から戦争を無くす王になる!」
「はあ?それのどこが『普通』なんだよ!そんなことできるわけねぇだろ?」
ギルバートがあきれている。
「出来るわけない、か。そうだよな。オレもそう思ってた。でも、誰かが何かしなければ変わらないなら、オレが変えてやる!そう思ったんだよ」
「本気なんだな?」
「ああ。『戦争がない世界』が『普通』になる国をつくってやる」
タイジュの目は真剣だ。いつも何だか面倒そうにしているタイジュとは違う。覚悟を決めた顔をしている。
「でも戦争を無くすなんて、絶対無理だ!最高でも最低でもないものを目指すって言うが、戦争が無い世界は、最高の世界だ!そうだろ?」
「ギル。オレにとっての最高は、『呪い』を無くすことなんだよ。それに比べたら、戦争を無くすことの方が簡単だ」
「はあ?『呪い』?───昔、何とかって王様がヒトを呪いながら死んでいった。だからこの世界は呪われているって話のことか?旅をしてた時に、聞いたことはあるが、そんなの迷信だろ?」
「迷信じゃない。呪いはある!」
タイジュが真剣な顔で言う。
「ギルはまだ大きな戦争を経験したことがないな?アレは人がたくさん死ぬ時に出て来る。そして、さらに多くの人を殺すんだ」
「呪いは本当にあるっていうのか?」
「そうだ。アレは実際に見た者にしか、理解できない」
「オメーは見たことあるっていうのか?───っと、誰だ!」
タイジュとギルバートのすぐ側で、何者かの気配がした。ギルバートは腰の大剣を素早く抜く。
「ふふっ。まあまあの反応速度です。マスターの護衛としてはまだまだですが、一応、合格点です」
何もない空間からエルが現れた。
「アンタ、本当にヒトじゃねぇーんだな…」
口を開けて驚いてるギルバートには構わず、エルが報告する。
「マスター、任務完了です」
「デヴァルは説得できたかのか?」
「デヴァルがこれまで、他人にしてきたことを体験していただきました。これであの男も理解できたと思いますよ。マスターも良く言ってるではないですか?『人は自ら体験したことしか理解しようとしない』って」
「たしかにそうだが…。まさか、タレース王にしたように、幻術を見せたのか?」
「はい。時間が無かったので、一気に見せたところ、最後は返事もできなくなりました。騎士団の撤退はデヴァル以外の貴族が決めたようです」
エルの言葉に、タイジュは頭が痛くなる。
(心配してたことが、現実になったようだな。確実にやり過ぎだ。デヴァルは再起不能かもな…)
『タイジュ。エルに命令する時は、具体的かつ的確に指示しないと。エルはヒトではないのだから。デヴァルの脳は負荷に耐えきれず、思考を放棄したんだわ』
(あー……。そうだったな。次からは気を付けるよ)
とりあえずヒト種の騎士団も撤退した。戦争にならなくて良かったと安堵したタイジュだが、空に新たな気配を感じる。
(あれは、ツクヨの一族が使役している伝令鳥…)
タイジュは鳥を捕まえると、取り付けられていた書簡を確認した。
「なんだって!ツクヨがアレの発生を予知しただと。戦争は回避したのに何故だ?しかも、帰路にある騎士団が危ないってどういうことだ?」
ツクヨの予知は、かなりの確率で現実となる。タイジュたちは、急いで騎士団を後を追った。




