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完全無比な少女月嶋琴葉〜①〜

人間と魔族。

この世界には二つの種族が混住している。

 俺の住む未来都市セントラルは、そんな二つの種族の共住をシンボルとして創られたと人工島だ。

 

 数十年前。

 突如として人間の住む世界と魔族の住む魔族界が融合し、ひとつの世界が誕生した。

 当初は互いの住人共に混乱を極めたが、お互いの身体構造や生活に大きな差がなかったことが幸いして、数ヶ月単位で二つの種族は共存を表明する。

 唯一魔族のみが有していた魔力も徐々に人の体内で発現が確認され、やがて人間も魔力を動力に発動する魔法が扱えるようになる。

 その後、人間社会が築いてきた文明である科学技術と融合を果たし、いまでは魔法科学(通称:魔科)という形で、世界に浸透している。

 また、魔力の浸潤によりいままで電気で稼働していた電気製品と呼ばれる大半が魔力でエネルギーを補充できるようになり、産業的にも大きな革命を果たした。

 未来都市セントラルとは、人間と魔族が共存する巨大都市であると同時に魔科の研究、魔力と呼応した産業の最先端をいく都市でもある。


     ◆


 なんの変哲も学校の昼休み。

 しかしそこは戦場と化していた。


「っう! 後ろか!」

 ピリピリとした殺気のようなものを背中に感じた俺はすぐさまその場を飛んで物陰に身を潜める。

 刹那、目も眩むような強烈な光が、俺が先ほどまで立っていた場所で爆ぜ、コンクリートの地面を穿ち爆裂四散させる。

 直後、空気を震わせるほど轟音と爆風が俺の肌を吹き抜け、閑静とした校舎に異質な騒音として広がっていく。

「ちっ……本当に滅茶苦茶やってくれる」

 爆煙が晴れ、先ほどまで俺のいた場所に直径20メーターほどのクレーターができているのを見て舌打ちをしてしまう。

「私の奇襲を躱すなんてさすがゆうぽんね」

 視界を遮る黒煙の中から、カツカツとローファーの踵を鳴らす少女のシルエットが浮かびあがる。

「さすがって……大切なサークル仲間を殺す気で攻撃するか普通!?」

 煙に浮かびあがる影はやがて明快となり、悠然と佇む少女の姿を露わにする。

 少女は、ふわりと金色の髪を風に乗せ、心底楽しそうに微笑んでいる。

 彼女の名は、月嶋つきしま琴葉ことは

 夢莉の幼馴染にして彼女の良き理解者であり、ラジオクリエイトの企画について色々と助言をくれたいわゆる相談役のような人物だ。

 普段の表情こそ乏しいものの、精緻な顔つきに新雪のように真っ白な肌、赤と青の左右で異なる瞳の色を持つオッドアイが魅力的なクール系美少女。

 だが、いまはその可憐な瞳が怒りに燃えている。

「さっきの攻撃はうまく躱せたようだけど……今度のは、どうかしら?」

 カッ、と琴葉の左の赤彩が大きく開く。

「っう!」

 直後、さっきも感じた殺気のようなものが背筋を駆け抜けた。

 ここは危ない!

 長年の間眠っていた闘争本能が警報を下し、意識するより早く俺の体を動かしてその場から退避させた。

 それから数秒遅れて、先ほどとまったく同じ規模の爆発が物陰に炸裂し、コンクリートを穿ち、削る。

 踏ん張ることのできない宙を彷徨っていた俺は、背後から迫る爆風をもろに浴びてしまい、琴葉の足元まで吹っ飛ばされてしまう。

「いっつぅ……」

 受け身もろくに取れずに地面に打ちつけられてしまった体が痛みを訴えるが、そんなのにかまけている暇はない。

 すぐさま追撃に備えて体制を整える。

「まさか二度目の攻撃を合法的に私のパンツを見るために誘発するなんて……随分と計算高いことをやってくれるわね……」

 だが、予想に反し琴葉は俺に追い打ちを加えるような真似はせず、してやられたとばかりに悔しそうに言葉を切る。

「へっ? どういうっ!」

 こと、だと尋ねようと顔を上げた瞬間に衝撃的な光景が俺の目に飛び込んできた。

 コンクリートを破壊するほどの威力を有した爆破攻撃。

その衝撃波から発生する爆風は安々と琴葉の履いていたスカートを揺すり、たくし上げさせ、普段は衣服によって守られている下着を大胆に露出させていた。

 爆風に吹き飛ばされ、伏せるような形で地べたに這いつくばる俺の位置と角度からではスカートが翻り露わになった琴葉のパンツが拝めてしまう。

 命を賭した危機的状況だというのにも関わらず、男の本能とでも呼ぶべきものが縞々な光景を網膜へと焼きつけようと視線を食いつかせ、離させてくれない。

「ゆう~ぽん?」

 琴葉が一際冷血な声を発すると、みっともない格好になってしまった俺の頬を鋭利な槍先がかすめ抜ける。

「ひぃ!」

 あぁ、これ俺死んだな……。

 硬い地面を深々と貫き、刺さった真槍に体内の危険レベルが極限まで上昇する。

 そもそも、どうして俺がこんな破壊者と命を賭した決闘を強いられているのかというと……そのわけはいまから数分前に遡る。


     ◆


 午前の講義を終えた昼休み。

 この日、俺と琴葉は珍しくタイミングよく落ち合えたため、ラジオクリエイトの企画書の修正がてら一緒に食堂で昼食を摂っていた。

 そんな団欒とした光景の最中、突如として死の宣告は下される。

「なぁ、この子。絶対貧乳だよな?」

 それは、ちょうど琴葉が座っている席の真後ろから聞こえてきたとある男子グループの会話の一部だ。

 どうやら男子グループは持ち寄ったグラビア雑誌のモデルの子の胸の大きさについて討論していただけらしいのだが、そんな事実などなんの意味も持たない。

 あるのは、ただ〝貧乳〟という単語が語られたという真実のみ。

「ねぇ、ゆうぽん?」

 プツン、と箸を動かしていた琴葉の脳内回路が切れる音がした。

 ここから逃げなくちゃ。

 そう考えたときには既に手遅れで、琴葉の視線は何の罪もない無垢な被害者を真っ直ぐに捉えていた。

 もちろん、ここでいう無垢な被害者とは俺のことである。

「ちょっといまから食後の運動がてら、私の魔科の調整に付き合ってくれない? しばらく力を開放していなかったからもしかしたら暴走しちゃうかもしれないけど、命は保証してあげないから安心して」

「あの~是非ともそこは保証してもらいたいのですが……」

 ちなみに先の琴葉の台詞を訳すとこうなる。

『貧乳という単語で頭に血が上っちゃったから、ストレス発散のための生贄となって。お願い♡』

 語尾の♡は少しでも恐怖心を和らげようと俺の弱い心が無意識の追加したオプションであるため、実際の琴葉の意識には優しさなど微塵もございませんのでそのあたりは十分に注意してください。


 以上、回想終了!


 って、理不尽過ぎるだろ‼

 逃げるのに必死になるあまり最初に突っ込むべきところを忘れてしまっていた。

「チェックメイトよ、ゆうぽん」

 突き刺さる真槍を引き抜き、振りかぶるようにして掲げる琴葉。

「そう簡単に、殺られるかっ!」

 瞬間、俺は体中の筋肉を爆発させ両腕をバネのように利用して体幹を起こす。

 俺が体制を整えた数秒後、目標を見失った真槍は再び地面を深く穿ち、四方八方に亀裂を生み出す。

「ちっ、避けられたか」

「仲間を殺し損ねて舌打ちするな!」

 砕かれた中心から亀裂の走る地面。

 もしもその中心に置かれていたのが俺の頭かと思うとゾッとする。

「というか、これもすごく今更なことだけど……魔族や人間が宿せる魔科の種類は、一個体につき一種類っていうのが常識じゃなかったか?」

 魔族の出現により生まれた魔科。

 その力は、個体により性質こそ異なるものの基本的には一個体につき一つの性質までしか扱えないと教えられている。

 もちろん似たような性質を持った力ならば一人の魔族や人間が別の力を発動させることは確認されているが、まったく異なる性質を持った能力を複数所持しているなんてことは前例がない。

「そう……じゃあせっかくだからおさらいしておきましょうか、ゆうぽん。私たちが呼ぶ魔科の性質について」

「なら俺もせっかくだから、その誘いに乗ってやるよ……魔科とは基本的に6つの性質により分類され、その波形から各個人の能力へと分化していく。かつての魔族界より伝わる火、水、風、光、闇、そして人間界との融合により生まれた鋼の性質。多種多彩な能力が確認されている魔科だが、その根本にあるのはこの6つの性質のいずれかひとつ。言い換えればどんな魔科も必ずこの6つの性質に分類されるってことだ」

 余談だが、鋼の性質は別名造形系の魔科とも呼ばれており、創造力を駆使した魔科(武器や防具の生成など)がこれらに分類される。

「ピンポン、ピンポン、大正解。じゃあそんな優秀なゆうぽんに私からクエスチョン。私が見せたふたつの魔科は、果たしてどの性質に当てはまるでしょうか?」

 お遊戯とばかりのふざけた拍手を送りつつ、琴葉がくすくすと笑う。

 これが挑発ではないことはわかっている。

 ただそこにある事実を認識させるためだけの演出……。


 だが、俺はあえて琴葉の策略にハマるように彼女の力を分析する。

 琴葉がこれまでに使用した爆破と真槍。

 どちらも魔科の力によるものだと仮定すると、爆破は火の性質、真槍は鋼の性質により造られたものだと断定できる。

 しかし、ここで大きな矛盾が生じている。

 異なる性質の魔科を一個人が同時に併用することはできない。

 そう教えられてきた常識に、いまの状況がどうしても矛盾してしまう。

 俺の常識が間違っているのか、はたまた琴葉が特殊なトリックを用いてあたかもふたつの能力を併用しているように見せかけているのか?

「分析は終わったようね。なら、頭のお堅いゆうぽんに私からのアドバイスをしてあげよう。人はいかなる時代においても多数の人々が正しいと思った事象を信じる傾向にあるわ。それが常識という概念を生み出し、人は成長し学んでいくたびにそのフィルター越しに物事を捉えていくようになる。だけどそれは大半の人々が決めつけたことであって、真実ではない」

「随分と回りくどいな。要するに、どういうことだよ?」

「常識は常に疑ってかかるべきってことよ。いまみたいな事態に遭遇しても柔軟に対応できるように、ねっ!」

 三度、琴葉の赤い瞳に閃光がほとばしる。

 すると今度は俺のいる位置より手前の地面が爆発する。

 規模はそれほど大きくなかったが、威力こそ違わない爆破はコンクリートの地面を簡単に破壊し、砂塵と黒煙を巻き起こさせる。

 おかげで俺と琴葉の視界は煙に撒かれてしまい、ほとんどを奪われてしまう。

 いやっ、違う……これは!?

 目くらまし。

 そう気づいたのとほぼ同タイミングで、俺は身を後ろに投げて死角からの攻撃に備える。

 予想は的中。

 煙を貫き現れたのは、琴葉が装備した真槍。

 その矛は寸分の狂いなく俺の急所を狙って突き進む。

「くそっ!」

 俺はとっさに体を捻じるも間に合わない。

 そう頭が理解した途端、体がかつての記憶を呼び覚ます。

 手元に意識を集中させ、頭で何者にも負けない鋼をイメージする。

 長いこと放置していた魔力を体内で循環させ、完成した設計図へと一気に投射する。

 

 ――キンッ。


金属と金属がぶつかりあう音が戦場に響く。

弾かれた琴葉の真槍が宙を旋回し、やがて砕け散り消滅する。

「ゆうぽん、それ……」

 武器を失った琴葉は呆然とした様子で、俺の手に握られた一振りの剣を眺める。

「……やっちまったか」

 もう使う機会などないと封印しているつもりだった俺の魔科。

 まさかそれがこんな形でお披露目になるとは……。

「私の真槍を弾いただけで粉砕するなんて……」

「少しは頭を冷えたか? 悪いがおまえにもう勝ち目は……」

 軽く脅すつもりでそう宣告したときだった。

 唐突に視界がぐにゃりと歪み、意識が遠くなっていく。

「あはは……やべぇ、久し、ぶりに……無理、しす、ぎ……た」

 渾身の力を振り絞って生成した剣だったが、無情にも光の粒子となって消滅する。

 俺の意識も剣の消滅を機にどんどんと遠のいていき、やがて自力で立つことさえ困難になり、そして……。


皆さん、初めまして? 作者のゆ~ぽんです。

この度はラジオクリエイト~魔法と科学とラジクリメンバーの日常と~をご覧頂き誠にありがとうございます。

いままでのエロ要素満載から一転、魔科を使用したゆうと琴葉のガチ? 勝負模様をお届け致しましたw

さて本題ですが、いままで不定期更新だったラジオクリエイトですがこの度定期更新をするように決定いたしました。

更新日は隔週水曜日の午後5時頃を予定しております。

短くはありますが、これからもラジオクリエイトをよろしくお願い致します。

最後に、ブクマ、感想、評価をお待ちしております。

作者への質問でも構いませんので気軽にお声かけください。

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