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エッチ本探し大事件②

「というわけで俺の落としたドキドキおっ●いパラダイスを見つけてもらいたいんだが……」

「あの、すみませんがいますぐあちらの扉から退出して頂いてもよろしいでしょうか?」

 俺は依頼者の気持ちを十分に配慮した、温和な口調でお断りの意を表明する。

「そんな、駄目ですよゆうさん!」

 だが、そんなことを隣の善人は良しとしない。

 すぐさま依頼者を庇うように割って入ってくる。

「依頼の内容で協力の有無を決めるだなんて……私は例え無くし物がエロ本やオ●ホのようなエッチなものだろうとも全力で探します!」

 表面的には真摯に悩みを解決したいという純粋な精神をアピールしているが、よく目と耳を研ぎ澄ませてみれば……。

『(こんな面白そうな依頼をスルーするなんて勿体無いです!)』

『(ドキドキおっ●いパラダイスってどのくらいエロい本なんだろう。読んでみたい!?)』

『(ゆうさんってエッチな本とかにちゃんと興味あるのかな? もしエッチな雰囲気になるようだったら私押し倒されちゃうのかな?)』

 などという煩悩に満ちた夢莉の本音が簡単に読み解ける。

 というか最後のは目的自体が変わってるだろ!

 しかし、夢莉の邪な部分を抜きにすれば、その意見には一理ある。

 協力の有無を依頼内容次第でこちらが勝手に判断するのはたしかにおかしい。

 仮にもコンサルタントであるならそれ相応の責務を果たす義務がある。

「はぁ……わかった。それで具体的にはどうするんだ?」

「任せてください! こういうのはまず情報を聴収していって、落とした場所に目星をつけていくのが定石です!」

 協力こそするものの解決案や散策手段などはすべて一任するという俺の意図を察してくれたのか、夢莉は任せろといわんばかりに大きく胸を張る。


「昨日の夜は●コッたんですか?」


「おまえはなんの情報を聴収しているんだ!?」

 真顔でとんでもない爆弾を投下する夢莉。

 とりあえず様子を伺おうと、どっしりと腰を据えていたが、それが数秒で浮いてしまった。

「もちろん無くなった本の行方を辿るためのヒントです!」

「昨日●コッた話がどうヒントに繋がるんだ?」

「ふふふっ、昨晩オ●ニーをしたということはそのときまではたしかにエロ本が手元にあったという証拠になります。つまり、エロ本は今日学校に登校したときからここに来るまでの間に無くなったと考えられます」

 すごいドヤ顔で語られたんですけど……。

 あまりの自信過剰振りに、鼻を折ってしまうことに罪悪感を覚える。

「それって……わざわざそんな遠回しに憶測立てなくても、普通にいつから無くなったかって聞けばよくないか?」

「…………」

 その手があったか、といわんばかりに驚愕する夢莉。

 だが、すぐさまその面子を振り払って、

「そんなことよりゆうさんは、ちゃんと昨日は●コッたんですか?」

「いま絶対誤魔化したよな?」

「ご、誤魔化してなんかないですよ? 私は純粋に、ゆうさんが昨日ちゃんと●コれたかどうか心配しているだけですから!」

「いらん心配をすな! というかちゃんとってなんだ!」

「えっ? ゆうさんぐらいの年の男の子は毎日オ●ニーしないと正気を保てなくなるんじゃないんですか?」

 演技ではなく、本気で驚く夢莉。

「おまえ……その情報はどこから仕入れてきたんだ?」

「Wi●ipedia」

 誰だ! W●kiにそんなガセを書き込んだ野郎は‼

「ゆうさん……まさか、昨日●いてないんですか!?」

「どうしてそこまで驚く!? 別に死にはしないだろ‼」

「たしかにやらなくても死にはしないですけど、オ●ニーを行うことにはセッ●スに必要な体力やスキル、射精感覚を養うと共に前立腺がんの予防に繋がったりと様々なメリットがあるんですよ! さらには勃起力を高めたり、早漏の防止になったりと、とにかく良い事尽くしなんです‼」

 オ●ニーのメリットについてここまで熱く語るヒロインってどうなの?

「ちなみに医学的観点からだと3日に一度のペースで●いた方が良いらしいですよ」

「まだ語るか! っかその知識があるならなぜWi●ipediaの情報が間違っていると気づかなかった!?」

「そういうわけですので、昨日●コッたかどうかを教えてくださいゆうさん!」

「どういうわけからして俺のオ●ニー遍歴をここで暴露しなくちゃいけないんだよ‼ っか純粋におまえが知りたいだけだろ!」

「ありぃ、バレました?」

 チロッ、と可愛らしく舌を出して笑う夢莉。

「……はぁ、そもそも質問をする相手は俺じゃないだろ」

 これ以上プライベートなことを突っ込まれるのも御免なので、未だゲンドウポーズを崩さない依頼者を指さして夢莉の目的意識を促す。

 つ、疲れる……。

 こんなことなら、夢莉の意思など無視してお帰り頂いた方がまだ楽だったかもしれない。

 頭痛のする頭を押さえ、激しく落胆する。

 不機嫌に眉根を寄せる俺を横に、夢莉が改めて依頼者と対面する。

「昨日は●コッたんですか?」

 あれだけのやり取りをしていて、まだそれを聞くか!

 っかなんでおまえはさも平然と初対面の男性にそんなことが聞けるわけ!?

「昨日は……………………あぁ、●いたな」

 しかもこっちもこっちで答えちゃったよ!

 そんなゲスイことを盛大に溜めていうなよ‼

「ちなみにそのおかずは?」

 こいつもこいつでより先の領域に踏み込むなよ!

「……………………よう」

「アウトーーーーーーーーーっ!」

「へぶしっ‼」

 色々と問題的な発言を吐露しそうになった依頼者の首元を刈り取り、口封じもとい意識を奪う。

「あわわ、ゆうさんなにをするんですか!?」

 泡を吹いて倒れる依頼者を前に慌てふためく夢莉。

「もう少しで言質が取れるところだったのに……」

「おまえもおまえでゲスイな……」

 不満そうに唇を尖らせる夢莉のゲスさ加減が身に染みたところで、俺は依頼者の処理について検討する。

「残った問題は、こいつをどうやって処分するかだが」

「そんなの問題として検討しないでください! 私たちは迷える子羊たちを救うためにここにいるんですよ!?」

「あーうん……そういうことなら依頼者を天井に吊るすのは止めてあげなさい」

 俺が気絶させた一瞬の隙に、どこからともなく縄とロウソクを調達してきた夢莉を真顔で静止する。

「ちっ、違いますよ! これは、その……今度ゆうさんが私を吊るしてSMプレイをするときのための予行練習に、と思っただけですから! 決して人を吊るすことに興味があったとか、自分がこういう格好をしたときの反応を妄想したりするためじゃありませんから!」

「もうちょっとうまい誤魔化し方はないのか! 聞いてるこっちが恥ずかしいわ!?」

 この後、夢莉に縄とロウソクを持つことを強要されたのはいうまでもない。


     ◆


 結局依頼者は吊るしたまま放置という状態で、俺と夢莉は依頼を解決すべく知恵をしぼる。

「ゆうさん、これからどうしましょう!」

 前言撤回。

 知恵をしぼるのは俺だけのようだ。

「エロ本探しだろ? こういうのは俺じゃなくてエロ先輩とかに協力をお願いしろよ」

 エロ先輩こと二階堂憐にかいどうれん先輩。

 希望の丘学園大学機械科に通う三年生(つまりは俺たちの先輩)で、どういうわけか俺たちラジオクリエイトの企画に協力してくれる、いわゆるサークル仲間だ。

 あだ名の通り、夢莉や他のメンバーにセクハラをかます変態だが、パソコン系の知識は豊富で、ラジオクリエイトの編集を担当してもらう予定でいまのところは企画が動いている。

「なるほど……エロ先輩でしたら落ちてるエロ本の臭いとか嗅ぎわけられそうですしね。ここはその嗅覚を利用させてもらいましょう!」

「それ、もはや人間業じゃないよね……」

「そういうわけですので、早速捕まえに行きましょう!」

「へっ? 捕まえる? 普通に電話すればいいんじゃ……」

 そう言って夢莉は鞄から一冊の本を抜き、それを棒で支えただけのザル籠の中へとセットする。

 つっかえ棒には糸が括りつけてあり、それを引っ張ることでザルが落ちて獲物を捕らえるというなんとも古典的な罠だ。

 というかここまで罠の仕組みがあからさまなものに引っかかるやつなんているのか?

「これで、エロ先輩が来るのを待ちます!」

「いやいやいや、無理だろ! そもそもいくらエロ先輩でもエロ本を嗅ぎわける嗅覚なんてあるわけないし! あったとしてもこんなあからさまの罠に引っかかるわけないだろ!?」

「くんくん……おや、ここに濃厚にエロすな香りがするぞ」

 本当にキタアァァァァァァッ!?

 背中から耳に触れる放漫な声。

その主は、両鼻で空気を撫でながら窓枠に背中を預けていた。

「いつからそこにいたんですかエロ先輩……」

 俺は、部屋の隅の窓に佇むひとりの先輩にジト目で反応する。

「ついさっき、さ」

 ついさっきって……部屋の扉が開いた気配がないんですが?

 エロ先輩は、優雅な所作で窓枠から飛び降りると、夢莉が仕掛けた罠へと手を伸ばす。

「確保――――っ!」

「ぐへっ!?」

 まさに電光石火の早業。

 エロ先輩が罠を解除し本を拾おうとした刹那、夢莉がリードの付いた首輪をエロ先輩へと装着する。

「罠の意味は!?」

「こんなあからさまにバレバレの仕掛けの罠に引っかかるわけないじゃないですか!」

「おまえが仕掛けたんだろ!?」

「というか、首輪を付けたまま僕を放置しないで欲しいのだけども……」

「あれ、エロ先輩? 新しい趣味に目覚めたんですか?」

「君がやったことだよね、夢莉ちゃん!?」


「……なるほど。つまりはその無くしたエロ本について知っていることはないか、というわけだね」

 一通り事情を説明すると、エロ先輩はすぐにいまの状況を察してくれた。

「あっ、いえ。エロ先輩の嗅覚を使って直接見つけてもらおうかなって思って召喚しました」

「あぁ、そっちか」

「それで納得するエロ先輩、まじパネェっす……」

 さすがは変態で有名なだけはある。

 夢莉に首輪で繋がれているもののその表情は満更でもなさそうだ。

「それで、僕は一体なんというタイトルの本を探せばいいんだい?」

「はい……『ドキドキおっ●いパラダイス』というタイトルの本なんですけど――」

「な~んだ。お安いご用さ」

「エロ先輩、もう在処がわかったんですか!?」

 あまりに自信満々のエロ先輩の様子に思わず感嘆してしまう。

 もはや人間の嗅覚じゃないぞ!

「在処もなにも……ほら、そこに落ちているじゃないか」

「へっ?」

 エロ先輩が、スッと床に設置された罠を指さす。

 いや、正確には罠と餌として使われていた本。

 俺は恐る恐るザルをめくってみると、そこには水着の女性が表紙を飾る、『ドキドキおっ●いパラダイス』と堂々と描かれた一冊があった。

「……これって夢莉が用意した本だよな。どういうことだ?」

「はっ! そういえばここに来る途中で私エロ本を拾ったんでした!」

「はぁ!?」

 今更ながら明かされる衝撃の真実に、俺は唖然としてしまう。

「この本を使ってゆうさんがきちんと女の子に興味があるのか確認しようとしたんですけど、すっかり忘れていました」

「じゃ、じゃあつまり……」

「犯人は、夢莉ちゃんだったというわけか」

「えへっ……あっ、せっかくですからこの本をみんなで読みましょうか?」

「おまえは色々と反省しろ――――っ!」

「ふぇぇぇ、ごめんなさ~い!」

 怒りに打ち震える俺の怒声と恐怖に震える夢莉の叫びが学園全体に響き渡るのだった。

 

 その後、依頼者が起きたところでエロ本は返却し、依頼は無事に終息するのだった。


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