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エッチ本大事件~①~

 希望の丘学園大学。

 それが俺、一色ゆうが所属する大学の名前だ。

 魔法と科学が混合した都市、未来都市セントラルに門を構えるそこは、様々な人材の育成をモットーに世界最大数の学科が取り揃えられている。

 さらにこの学校には、自由科というこの学校独自のシステムが導入されている。

 自由科とは、大学入学までに具体的な進路が確定していない者を対象に作られた特殊な学科で、その創設意義は在学期間中に将来の自分像を確立させることにある。

 他の学科に比べ学費は高めに設定されているが、自由科には必修科目の自己選択と受講科目の自由選択という特別な権利が与えられている。

 将来の可能性を広げるという意味でも受講科目の自己選択は最も重宝されている制度であり、実際に科目を受講してみて将来の方向が固まれば在学中に学科の移動もできる、なんとも画期的なシステムである。

 そして、そんな自由科に所属する俺は彼女と一緒に絶賛、己の進路を選択中なのであった。


     ◆


「俺の今晩のおかずを探して欲しい」

 授業も終わった放課後。

 サークル活動用に用意された教室で夢莉と一緒にラジオの企画書のチェックをしていると、音もなくやってきた男子学生が、俗にいうゲンドウポーズを決め神妙な趣で俺たちに相談を持ち掛けてきた。

「いや、そもそも俺たち学園のお悩みを解決するサークルじゃないから……」

 ただでさえこれからやることが増えるというのに、そんな学園の悩みを解決するス●ット団みたいなことをやっている暇はない。

 丁重にお断りし、お引き取り願おうとする俺をよそに男子学生は「えっ?」と眉をひそめてみせた。

「おかしいな……学園のホームページにお悩み相談募集中って書いてあったから来たんだけどなぁ」

「はい?」

 男子学生の口から出た新事実。

 俺はすぐさま真相を確かめるべく、スマホのエンジニアで学園のホームページにアクセスする。

 すると、そこには俺たちのサークル名が書かれたリンク先があり、ジャンプした先には【学園のお悩みを解決します】というキャッチフレーズの元、淡々と相談受付の要項が羅列されていた。


「……夢莉さぁん? これはどういうことかなぁ?」

 俺はすぐさま犯人と思わしき人物に目星をつけ、かる~い尋問もとい詰問をするのだった。

「ゆうさんに内緒で作っちゃいました。てへっ」

「よしっ!」

「お仕置きですか!? それならちょっと荒めの縄とムチを用意しますね‼」

「違う! 変な妄想を膨らませて期待に満ちた目をするなぁ!」

「ご一緒にロウソクと衣装はいかがですか?」

「いらねぇよ! っかなんでこんな忙しい時期にお悩み相談所なんて作ったんだよ」

 一発チョップでもお見舞いしてやろうかと考えていたが、厄介な方へと会話が逸れたため手っ取り早く本命を伝える。

「それは……」

 俺の質問に、夢莉の瞳が揺らめく。

 動揺、というわけでもなさそうだ……おそらく答えに迷っているのだろう。

 しかしそれも数秒の出来事。

やがてその瞳も真っ直ぐ真剣なものになり、揺るぎない信念のようなものを俺へと表明する。

「人の夢を応援するためです」

「っう!?」

 その言葉は、天ヶ瀬夢莉を構成する支柱のようなもの。

 暗く閉ざされていた俺の未来に光をくれた想いが、いまその眼差しへと宿っている。

「人間、みんなが夢に向かってひたむきに努力できるわけじゃありません! 人は大抵悩みや困難という壁に突き当たって夢を諦めてしまうんです……だから、私がその悩みや困難の壁を壊してあげたいんです……そうすれば、みんな挫折することなく夢を追いかけられるはずですから」

「まったく……」

 夢莉の想いを受け止めた俺は、やれやれと肩をすくめてみせる。

 実際、卑怯だ。

 夢莉の夢を応援するって決めた俺にそんな目的を告げられちゃ、否定することができないじゃないか……。

「書類のチェックは夜進めることにするから、ひとまずあっちの悩みを解決しようぜ」

「ありがとうございます!」

 ぱぁ、とさっきまでの真剣な面様が嘘のように夢莉の表情が晴れ色へと変わる。

「そ、その夜チェックするのでしたら、私も今晩ゆうさんの家にお泊りして、お手伝いしましょうか?」

 そして、瞬きひとつしない間に頬を朱色にしてもじもじと体を揺すってくる。

 どうやら平常運転に戻ったらしい。

 その切り替わりの早さは、めげない、悔やまないで有名な夢莉さんの伝統芸のようなものなのだろう。

 もう何度も目の当たりにしているので今更驚く要素はない。

「さぁて、相談者さんを待たせてもいけないし、そろそろ本題を聞きに行きましょうか」

「むぅ~ゆうさんのイケず~」

 こういうのは反応せずにシカトするのが一番。

 背後で不満そうに頬を膨らませる夢莉を無視して、俺は相談者へと向き直るのだった。


「え~と、たしか相談内容は今晩のおかずを探して欲しい、だったよな?」

「あぁ」

 俺は相談者と対面するように座り、念のため確認をする。

 というか今晩のおかずを探す?

 改めて聞き直してみるとおかしなフレーズだな……おかずを探す? 夕飯の材料でも落としたのか?

「それで、一体どんなおかずを落としたんだ?」

「ドキドキおっ●いパラダイスという極上の一品を……」

「…………」

「…………」


 刹那、空気が凍った。

 そ、それって……思いっきりエロ本のタイトルじゃねぇかあぁぁぁぁぁぁっ!?


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